アイ・アム・デビッド
 日本では戦争と子供の物語といえば「サダコの千羽鶴」が有名ですが、欧米ではこの「アイ・アム・デビッド」が子供たちの間で絶大な人気を得て、ロング・セラーとなっています。

 東欧の某国にある強制労働収容所に12歳のデビッドという少年がいました。ある日、彼が“あいつ”と呼んでいる看守の計らいで、どこかにいるはずの母親を捜すため、収容所を脱出します。ギリシャからイタリアに船で渡ると、ひたすら北を目指すデビッド。彼に出会った人たちはデビッドのただならぬ様子に手をさしのべようとしますが、収容所で誰も信じてはいけないことを彼は学んでいました。警察に捕まれば殺されると彼は信じ切っていたのです。果たして、彼は母親に巡り会うことができるのでしょうか…

 この本はフィクションであり、軍事の勉強には直接は役立ちません。しかし、欧米の子供たちに支持されている本を知っておくことも、彼らの考え方を知る上で重要ですし、彼らと軍事問題を語る時にも活用できるはずです。本書は、自由を手に入れるために行動する少年が主人公です。日本から出ない限り、言葉が通じないことはほとんどないし、日本の常識を守っている限り困ることはありません。国籍を持たない者が、異なる国の中で生きていくことの大変さを、本書はストーリーを通じて教えてくれます。この感覚を身につけることは軍事問題を考える上でも重要です。現在、EU諸国は安全保障を共有するため、お互いに戦うことはなくなりました。そういう現代だからこそ、こういう時代があったことを忘れるべきではないのです。

 第一、この本くらいは教養としても読んでおくべきなのです。また、異民族と共に暮らさずに育つ日本の子供に、難民がどんなものかを理解させるのにも役立つでしょう。残念ながら、この本は文庫本でしか出版されていません。本来は、大判の絵本の形で出版してほしいところです。日本の子供たちにも読んでおいてもらいたい。子供たちが成長して軍事問題を考えるようになった時、「そう言えば、『アイ・アム・デビッド』にそんな話があったっけ」と、思い出してもらえるかも知れません。

 この本は映画化されています。低予算作品ながら、ジム・カヴィーゼルのような大スターも出演しています。ストーリーはかなり変えてあり、新しい設定も追加されているので、本を読んでから見ても楽しめるでしょう。また、映画化にあたり、小説では明確に示されていなかった収容所の場所が、当時、共産主義国だったブルガリアだと特定されています。 (2006.9.6)

DVD

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