これは日系人米軍部隊第442連隊戦闘団のドキュメンタリー本です。矢野徹氏も類似書を出版していますが、こちらはほとんど小説であり、軍事的な考察にはほとんど役に立ちません。ヒロイズムに感動したい方は、こちらを読むことをお勧めしますが、戦争に対する誤った印象を持つ恐れがあることは指摘しておきます。その点で、文芸春秋読者賞受賞作でもあるドウス昌代氏の本は詳細な調査に基づいた内容です。ただし、現在は刊行されておらず、残念ながら古本でしか手に入りません。
この本の特徴は、女性が書いたにも関わらず、戦闘に関する描写が正確なことです。通常、どんなドキュメンタリー本でも、内容に気になる点がない本はありません。どこか引っかかる記述はあるものなのです。しかし、本書は公式の戦闘記録だけでなく、現場の兵士へのインタビューから、公式戦記には書かれない事柄も注意して拾い上げています。そのため、日系人兵士が明らかに戦闘ストレスを起こした状況やドイツ兵を違法に虐殺した事件に至るまで、詳しく書かれています。著者が非常によく研究された跡が見えます。この部隊に朝鮮系の将校が一人だけいたという意外な事実も、私は本書で初めて知りました。
第442連隊戦闘団は日系米人を集めた部隊でした。太平洋戦争がはじまると、日系人が日本軍に協力し、破壊活動などをする恐れがあると考えた米政府は、州軍兵士などの日系人を一カ所に集め、第100大隊として編成しました。特に、日本移民が多かったハワイは、日本兵が日系人軍人に変装したら見分けがつかないことを恐れたといいます。そこで、とにかく兵士を一カ所に集め、それから彼らをどうするかの検討が始まりました。様々な意見が出されたものの、部隊をヨーロッパ戦線へ派遣する方針が決まり、第100大隊は海を越えました。そして、第442連隊戦闘団が結成されて、第100大隊がその中に編入されることになり、多くの日系人がアメリカへの忠誠心を示し、自分たちへの偏見と戦うために志願しました。そして、フランスとドイツの国境地帯にあるボージュ森で、包囲されたテキサス師団を救出するために死闘を繰りひろげました。ブリエアはその森にある村の名前です。結果として、第442連隊は最も勲章を受勲した部隊となったのです。
戦闘だけでなく、息子たちを送り出した側の話も細かく書かれています。また、ハワイで志願した者たちの中には、これを日系人が政治に進出するチャンスと捉え、共和党しかないハワイに民主党を招致しようと考えた者がいたという、興味深い事実も紹介しています。日本人書いた第442連隊のドキュメンタリー本は、他に友北十三氏の本があるようですが、紹介文を読む限り、マニア向けの本のようです。多分、「ブリエアの解放者たち」が唯一の本格的なドキュメンタリー本なのでしょう。(2008.1.30)