武器を持たない戦士たち—国際赤十字
 ジュネーブ条約という言葉は知っていても、内容を知らない人が多いのは困ったものです。最近、「赤十字」を「あかじゅうじ」と誤読する人が多いという調査報告もあります。2004年8月31日、日本はジュネーブ条約の追加議定書を批准したことにより、この条約について国民に啓発活動を行う義務が生じました。今後はこの状態は改善されていく見込みです。

 でも私は、追加議定書の批准を議論した国会議員たちも、その国会での議論の内容を見る限り、かなりの人がジュネーブ条約の内容を知らないのではないかと考えています。具体的な内容に突っ込んで質問したり、答えた議員が本当に少数なのです。ほとんどの議員は「良いことなので賛成」という単純な意見を披瀝しただけでした。そして、それを批判すべきマスコミもいませんでした。彼らもジュネーブ条約の中身を知らないに違いありません。

 それもそのはずかも知れません。最初のジュネーブ条約締結のきっかけになったのは、アンリ・デュナンが書いた「ソルフェリーノの思い出」という本なのですが、この本は現在完訳版が販売されていないのです。読みたければ古書で手に入れるか、大きな図書館に行くしかありません。『武器を持たない戦士たち』には要訳版ながら、「ソルフェリーノの思い出」が収録されており、赤十字社設立のきっかけとなった戦闘について知ることができます。赤十字社創立を知らずして、ジュネーブ条約を知ることはできません。

 また、『武器を持たない戦士たち』には、赤十字社に関わった人々の話、赤十字社が活動した世界各地の状況と問題に関する様々な人が書いた文章も載っています。赤十字社は慈善のための団体ですが、それを知ることは戦争を知ることでもあります。ジュネーブ条約自体が戦争の歴史と共に改正され、その活動も変化してきたため、自然と戦争の歴史についても学ぶことになるのです。武器や戦略論を研究するだけでは戦争を知ったことにはなりません。戦禍を減らす具体的な努力についても知る必要があるのです。

 なお、ジュネーブ法と追加議定書の内容を知りたければ『自衛官 国際法小六法』が手頃です。原文と日本語訳の両方が書かれており、その他の関係法令も載っています。 (2006.8.26)

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