脅威 ソ連軍事機構の実体
 この本は昭和60年に出版され、古本でしか手に入りません。冷戦時代のソ連軍の関する脅威は実体よりも誇張されていることを、様々な実例を通じて教えてくれます。いまさらソ連軍の実態を知っても意味はないと思うかも知れませんが、脅威がどのように誇張されるものかを知るためには最適の本なのです。この本を通じて、敵の脅威が誇張され、味方の武器の欠陥が隠される実体を知るのは重要です。

 同時多発テロ以降、アメリカ人は政府の言うことを疑わずに信じる傾向が強まりました。しかし、イラクやアフガニスタンで行われていることで成果があがりそうなことは見つけられません。それでも、米政府の公式見解では「世界はより安全になった」ことになっています。

 ソ連軍の兵器の一例を挙げると…T64戦車の自動装填機は砲手の体を巻き込んだり、砲身のライフリングをなくしたため、命中率が著しく低下していましたが、アメリカでは強力な戦車と説明されていました。ソ連が、欺瞞工作として潜水艦の実物大の偽物を作り、衛星写真のアナリストを欺いたものの、悪天候で壊れてばれたこと。思わず笑ってしまうような話まで書かれています。アメリカのM1戦車の欠陥は、この戦車がその後、大きな成果をあげたことから、主張することがむずかしくなったかも知れませんが、それでもこの本の多くの部分は今でも興味深く読めます。

 我が身を振り返ると、国民保護法に関して、政府が説明する避難方法がまったく正しくないことに思い至ります。武力攻撃事態では、国民は最寄りの建物や地下街に避難して、救助を待つことになっています。しかし、大量破壊兵器が用いられた場合、こうした避難は一時的な被爆からは逃れられるものの、換気システムによって、避難場所には放射性物質、有毒な化学物質、細菌が拡散します。ビル管理者に有事には換気システムを止めるように指示する必要があるのですが、そういう規則があるとは聞いていません。なぜなら、換気システムを止めると、大勢が避難した場所の空気がよどみ、下手すると命の危険もあるからです。屋外は汚染地域になっているので、救援が来る可能性は非常に低く、国民は避難所で死ぬしかありません。

 この本は、こうした有事対処の矛盾を学ばせてくれるのです。

 余談ながら、本書にはソ連軍が煙幕弾を化学兵器とみなしていると書いてあります。おそらく、これは白燐弾のことで、煙を出すために白燐を燃やす時に出る高熱の危険性を指したものなのでしょう。国による考え方の違いも分かるのは興味深いことです。 (2006.9.29)

Copyright 2006 Akishige TanCopyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.aka all rights reserved.