これは日本映画の黄金期を支えた俳優の一人、加東大介氏が書いた有名な戦争体験の本です。知らない方も多いでしょうが、黒澤明の「七人の侍」で指揮官役・勘兵衛の副官・七郎次を演じた方と言うのが一番分かりやすい説明でしょうか。また、俳優・長門裕之氏の弟で、津川雅彦氏の叔父さんにあたる人です。この本は1961年に映画化されており、1995年にリメイクされたようです。リメイク版は観ていませんが、ストーリーを読んだ限りでは別物のようです。1961年版を、ぜひ観賞してください。
加東氏は、ニューギニアのマクノワリに衛生要員として派遣されていました。やがて、米軍が来ると衛生部隊は負傷兵で満員状態となりました。勝ち目がないとなると、半分を退却させ、残り半分を玉砕用に残しました。加東氏は玉砕組みに割り当てられます(ちなみに、退却組は移動計画の失敗から壊滅状態になります)。いよいよ敵が上陸するとなると、どうせ死ぬのだからと食料をほとんど食べてしまったのです。しかし、米軍はマクノワリを無視して先へ行ってしまい、身動きが取れなくなります。そこで周辺の40個ほどの部隊はイモを栽培して自給自活の生活を始めます。そんな中で、隊の士気を鼓舞するために各部隊から芸達者を集め、演芸分隊を組織して芝居を上演し、生活態度が優れている部隊への報償として慰問活動を行うというアイデアが生まれます。こうして、兵隊だけで組織する劇団が誕生するのです。そこで起こる様々な出来事を綴ったのが本書なのです。
この本を軍事的な視点で評価するならば、戦場と平時の生活の格差を肌で感じることができる本だということです。戦場で受けるストレスがデータではなく、体験談として書かれている点は参考になります。マクノワリで起こることもそうですが、加東氏が復員し、自宅に帰ったその晩に倒れ、1週間意識がなかったという話は、以下に酷い状況であったかが推察されます。しかし、他の戦場での戦争体験に比べると、加東氏の体験はまだよい方だという点でも、戦場の衛生状態やストレスの凄まじさを考えずにはいられません。
また、太平洋戦争にはこんなこともあったということを知ってもらい、物の見方に幅をつけるのに推奨したいと思います。私にとっては、日本映画へのオマージュとして、ここで取りあげたいという気持ちもあります。なにより、泣ける話なので、こうしたことを意識せずにも読めるのです。(2007.1.20)