これはむしろ集団的自衛権が必要と信じて疑わない保守派の人に読んで欲しい本です。「集団的自衛権に反対なんて、左翼の連中の言い分」としか考えない人に、国連PKOやアフガニスタンでの武装解除を経験した伊勢崎賢治氏の集団的自衛権反対論は驚きでしょう。
インターネットで保守派の集団的自衛権賛成論を見るにつけ、その単純さと、もの知らずのひどさには驚かされます。彼らは単純に集団的自衛権で日本の抑止力が高まると考え、その足を引っ張っているのが左翼だとしか考えません。集団的自衛権を行使することで、逆に危険が増すことは頭にないのです。国際情勢をよく知ろうともせずに、自分が支持する政治勢力の主張だから賛成という発想は危険です。この種の問題に簡単な解決はなく、常に頭をリセットして、状況によって個別に判断していくのだ大事なのに、最初に「集団的自衛権」を決めてしまい、あとは何も考えないのではダメなのです。しかし、私の経験上、保守派に集団的自衛権の問題点を教えてあげても理解できない場合がほとんどです。
私にとっても、伊勢崎氏の考え方は、自分とかなり共通している部分があり、新鮮な驚きでした。日本にこういう発想を持つ人がいることを見出して嬉しい気持ちです。
実際、日本政府、特に外務省の軍事オンチを何度も指摘した私としては、政府内に軍事的発想ができる人がいないことに失望していました。ある女性国会議員は月刊軍事雑誌で軍事を勉強しているらしいですが、この手の本は写真週刊誌的で、グラビアが売り物です。毎日変動する世界の情勢を考えるには1ヶ月以上前の情報は役に立たない場合も多く、私は一冊も買いません。使えるのは海外のニュースサイトや専門サイト、SNSのテロ組織のアカウントなどの情報です。
この本はおそらく、最も分かりやすく書かれた集団的自衛権反対論です。難しい言葉はできるだけ使わずに、著者の体験を中心に書いています。
集団的自衛権とは何かにはじまり、政府が主張する集団的自衛権を発動すべき事例の嘘、危険度が増すPKOや復興支援任務について読めば、政府がいうことがいかに現実からずれているかが分かるでしょう。
軍事をよく知った上で、平和を導くような政策に、政治家が目を向け、その方向へ向かわない限り、日本の外交政策は不安定なままです。国民も情報を独占するメディアによって、本当の国際情勢から目を逸らさせられています。伊勢崎氏の考え方は私が理想とする軍事問題の捉え方に酷似しています。
さらに、本書は北方領土、尖閣諸島、竹島の問題にも踏み込んでおり、集団的自衛権だけでなく、日本が選択すべき外交問題についても触れています。この本は日本の外交全般にも通じるものなのです。(2014.12.26)