これも、古書でしか手に入らない本です。しかし、日本の防衛問題を考える上で、ぜひとも読んでおいてほしいので紹介します。私はサイマル出版会版を読んだのですが、その後、中央公論新社から文庫版で売り出され、完売したようです。
この本は、フランク・コワルスキー大佐が、警察予備隊の創設に関わった時のことを書いた回顧録です。コワルスキー大佐は朝鮮戦争に連隊長として参加することを望みましたが、逆に日本の再軍備計画の任を与えられます。当時の日本人には完全に伏せられましたが、警察予備隊はのちに軍隊に昇格することが最初から決められていました。コワルスキー大佐は明快でユーモアに富んだ文章を書く人で、「再軍備計画が憲法に抵触すると認識していた」「自衛隊は世界で軍法会議の権限を持たない唯一の軍隊」「一切の軍備を持たないという平和憲法は人類の理想の姿」などと書いている点は興味深いことです。
自衛隊に関しては、とかく自虐的な見解が横行しているのが気になります。アメリカの傀儡軍だとか、階級が旧軍と違うから本当の軍隊ではないとか、どうでもよい議論ばかりです。そんな話を続けるよりは、この本を読んで、アメリカが何を考えたかを知るべきです。また、日米の文化の違いから起こった様々な事件には、笑えるものもありますが、考えさせられるものもあります。
その中から、現代の我々には理解しにくい話をひとつ紹介します。ある隊員が自殺した時の話です。その隊員の遺書によれば、敗戦後、彼は極度の生活苦を味わい、その反動で共産党に入党しました。熱心に活動をしたものの、やがて共産党に幻滅を感じて、警察予備隊に入隊しました。しかし、次第に自分が無価値に思えるようになり、自殺を決意しました。ここまでは、まあ理解できる範囲なのですが、足下に敷いたシーツに自分の鮮血で「マッカーサー万歳」と書いて事切れたというのです。なぜ「マッカーサー万歳」なのかと考えると、かつては「天皇陛下万歳」と教えられた人間にとって、当時、日本で最も権威がある人物に対して万歳を唱えたのだと考えるしか理解のしようがありません。そう思うと、なんだかやるせない気持ちになってしまいます。
書名からは想像のつかないようなことまで、実に詳しく書かれている本です。単に軍事の勉強のためではなくとも興味深いはずです。 (2006.8.26)