この本は、すでに内容が古くなっており、ロシア軍に関する研究論文は他にあります。しかし、過去のソ連軍のことを知りたいと思った時、現在は逆に資料を探すのが大変という意味でご紹介だけしておきます。
本書は冒頭から読み通そうとすると眠くなってしまうでしょう。むしろ、必要な時に必要な場所をチェックするのが正しい使い方と思われます。ソ連軍の全軍について組織や人事を中心に解説しています。一般的には、この手の本は武器の説明が中心となるものですが、そうした情報は溢れかえっています。意外と少ないのが、組織や軍事ドクトリンに関する情報で、これらが一冊にまとまっているという点が重宝なのです。
大戦以降のソ連軍の変遷、ソ連の軍事学の基本的な用語の定義、戦闘の法則、各軍の組織と人事の詳細、軍管区、党と軍の関係、軍産複合体、教育と訓練、将校教育。こうした分野別に客観的な解説が記されています。たとえば、下士官が政治教育を受ける時間はどれほどかとか、第2次世界大戦中にソ連軍内部に共産党員が何人いたかといった、細かい情報まで載っています。当時の状況を知るだけでなく、この本に載っていることを、現在のロシア軍と比較して、その変化を調べるのも面白いと思われます。
翻訳者の乾一宇氏は、出版時は陸上自衛隊1等陸佐でしたから、翻訳の品質は問題ありません。
定価で買った者としては言いにくいことですが、いまや古本なのでワンコインで買えます。手元に置いて損のない一冊だと言えます。なお、本書には改訂版もありますが、この書評を書いた時点では改訂版が売り切れ状態でした。一応、両方を紹介しておきます。(2006.12.28)