天と地
 映画「天と地」の原作となった本で、「ベトナム編」と「アメリカ編」に別れています。ベトナム戦争時、アメリカ人と結婚してアメリカに渡ったベトナム女性、レ・リ・ヘイスリップの物語で、戦争に関する事柄は「ベトナム編」に書かれています。しかし、「アメリカ編」も必ず読んでほしいと思います。なぜなら、故郷のために彼女が行った行動も知って欲しいからです。

 田園地帯で生まれ育ったレ・リは、12〜15歳の頃、北ベトナム軍の教えに従って行動し、南ベトナム軍と米軍と戦いました。そのために何度も逮捕され、拷問を受けます。その度に親戚の人脈を使って釈放してもらったのですが、そのために自分の立場が危うくなることに怒った親戚は縁を切ってしまいます。レ・リは北ベトナム軍から称賛される活躍もします。しかし、また逮捕されたため、今度は彼女の父親が別の人脈を頼りに、彼女を釈放させました。ところが、そのタイミングがあまりにも早かったため、ベトコンはレ・リが政府軍のスパイだと考え、銃殺することにします。ベトコンの兵士は彼女を森へ連れて行くと、なぜか殺さずに強姦して立ち去ります。村には住めなくなったレ・リは、サイゴンに出て働きます。そこで、アインという金持ちの家で家政婦として働くことになりました。ところが、アインと不倫に陥り、彼の子供を身ごもります。このことがアインの妻に知れたため、レ・リは自活しながら出産し、米軍兵士相手に闇物資を売り歩き、特には売春もやって子供を育てます。やがて、彼女は年配のアメリカ人・エドと知り合って結婚し、アメリカに渡るのでした。

 ここまでが「ベトナム編」の内容です。この後、アメリカで、彼女は男運がなくて大変な苦労をします。エドの他に別の男性とも結婚し、さらに4人のボーイフレンドと交際するのですが、ほとんどがうまく行かないのです。それが「アメリカ編」に書かれています。映画では、これらの男性はスティーブ・バトラーという架空の男性一人に集約して表現されていますが、この恋愛遍歴は何ともドラマチックで、自分が女性で彼女の立場であったら気が狂ってしまうと思うほどです。それがどうして軍事問題と関係があるのかと言えば、彼女の社会活動にあります。レ・リはビジネスで成功し、戦後のベトナムを支援するNGOを立ち上げます。映画ではこのプロセスは暗示する程度に抑えられています。おそらく、そのエピソードを挿入すると宣伝行為と受け取られる恐れがあるためでしょう。戦争で酷い目に遭いながらも、そこから目を逸らさずに自分の活動としたパワーには敬服せざるを得ません。よく戦争に対してシニカルな意見を吐く者をみかけますが、そういう者たちはレ・リのような強靱な精神力を有していないのだと断言できます。

 私はこの本を多くの女性に読み、映画を観て欲しいと思います。最近、日本で制作されている安物の太平洋戦争の映画を観て感動したりしないで欲しいと思います。映画の制作にはレ・リが全面協力し、オリバー・ストーン監督は撮影する時は常に彼女にいてもらったといいます。俳優の演技を見たレ・リが感動していたら、そのテイクを現像したのです。村のセットについても、彼女の記憶を活用して再現し、レ・リ役と彼女の母親役の女優には事前に村で生活し、農作業をさせたという徹底ぶりです。私はこの映画を観ると毎回涙が出ます。戦闘を見るのではなく、戦争で何が起きるのかを見て欲しいのです。戦闘を知るのは戦争を知るための手段に過ぎません。

 下の「オリヴァー・ストーンの天と地」は映画のシナリオとレ・リやストーンの文章と写真で構成された解説書です。その右隣はDVDソフトです。(2007.1.23)

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