テポドン2の評価に見る再発射の可能性

2006.7.10

 ようやく、ビック氏のコメントを掲載している記事を見つけました。ニューヨーク・タイムスは他の専門家の意見も合わせて掲載し、北朝鮮はあと5年から10年開発を続ける必要があるという見解を紹介しています。ビック氏のコメントを見てみましょう。

 「(北朝鮮は)トライアル・アンド・エラーの過程にある。彼らは問題を絞り出すために製造してテストしているところだ。それはどんな国もが体験しなければならない過程である。ロケットの設計者は、新型ロケットの信頼性の高さに合理的な確証を得る前に、一般的には2回から20回のテスト飛行を行う。使用可能と宣言されたロケットですら失敗率は、10回に1回か20回に1回である。北朝鮮は失敗から学び、もう1基のテポドン2を発射する前に、欠陥を修正するのに奔走していると考えるのが合理的だ」

 北朝鮮のロケット開発計画には余裕が感じられません。ビック氏が言うように、普通、ロケットを飛ばせるようになるにはかなりの回数の発射実験が必要です。アメリカや日本など、現在ロケット技術を持つ国はすべからく失敗を繰り返して技術を手に入れています。それを考えると、テポドン1で1回発射に成功したからと言って、すぐにテポドン2という新型を打ち上げるのは変です。そこで考えられるのは、北朝鮮が資材を節約するために急いで開発を進めているという可能性です。北朝鮮が何と主張しようと、テポドン1は人工衛星の打ち上げに失敗しています。テポドン1では人工衛星をあげられないことに気がついた北朝鮮は、より大型のテポドン2を造り上げたのではないでしょうか。実は、ビック氏はこの人工衛星についても記事に記述しています。数年前、北朝鮮は科学博物館で通信用人工衛星の模型を公開していました。「ガンミョンソン2」という名前だと考えられているこの人工衛星がテポドン2に搭載されていると推定されているのです。

 北朝鮮の肩を持つつもりはありませんが、テポドンは人工衛星のために開発されているロケットです。その軌道は人工衛星を打ち上げる時に似ているのに酷似しています。日本の人工衛星ロケットもテポドン2とほとんど同じ飛行経路を辿ります。globalsecurityに掲載されたテポドン2の予想軌道航空宇宙開発研究機構のサイトにあるH-IIAロケット試験機1号機の軌道(ページの一番下の図)は、起点こそ違うものの、ほぼ平行といえるほど似ています。H-IIAロケットの軌道の起点を舞水端里発射施設にすれば、両者の軌道はほとんど重なるはずです。現在、北朝鮮は静止衛星の開発の途上にあるのです。米ソのICBM技術が人工衛星の技術から作られたように、北朝鮮も同じことをしようとしているのです。人工衛星を望んだ軌道にあげられるくらいの技術があれば、弾頭を望んだ場所に落下させられるのです。今回の発射は将来的に軍事分野へ転向されるべき技術の下ごしらえです。ソ連がスプートニク1号を打ち上げるのに成功したのが1957年ですから、北朝鮮のロケット技術は現代よりも半世紀以上遅れていることになります。このことが見えにくいのは、多分、北朝鮮がテポドンを外交交渉の材料としても使っているためです。

 北朝鮮が冷静なら、もう1基のテポドン2を発射することはありません。まずは、打ち上げ失敗の原因を突き止めるのが先決で、いま発射を続行するのは無駄打ちでしかないからです。しかし、テポドン2を交渉の材料に使いたいという意向が強いなら発射するかも知れません。

 現在、テポドン2は舞水端里発射施設に移動されているという情報があります。この情報を正しく読むには、施設の配置を頭に入れておく必要があります。衛星写真を見れば分かるように、発射施設は広大な敷地を有しています。発射施設に部品が移動したことは発射そのものを意味しません。朝鮮日報は、テポドン2の部品は発射試験場内にある大型ミサイル格納庫にあると報じています。このミサイル格納庫は、写真の「Missile Assembly / Checkout Building(組み立て・検査工場)」だと考えられます。ここに置いてある間は、発射はまだ先のことです。しかし、部品が「Launch Pad(発射台)周辺に移動したり、発射台上で組み立てているという情報が出始めたら発射するつもりかも知れません。ロケットの部品がある場所が重要なポイントになるわけですが、韓国の国家情報院によれば、北朝鮮は1999年中盤にも約50日間テポドンを組み立てながら解体したこともあるため、組み立ては本当に発射することを示す証拠とは言えません。しかし、ロケットに注入した燃料を抜き取るのは難しく、ロケットを再利用できなくなる可能性があるため、この先の中止はないと考えた方がよいでしょう。

 少なくとも、中国の武大偉外務次官が北朝鮮を訪問している内は動きはないはずです。少なくとも、国連安保理の結論が出るまでは北朝鮮は動かないはずです。その後、何が起きるのかをよく見ることです。私たちは、1962年に起きたミサイル危機に直面しているわけではないのです。

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