北朝鮮のミサイルのお陰で、レバノン情勢に対する理解が遅れてしまいました。まだ、情報を集めている段階ですが、いくつかポイントがあがってきました。
現在、イスラエルは地上軍を国境付近に集結中で、数千人がすでに南部に侵入し、予備役にも招集がかかっています。報道されているところではイスラエル軍の自走砲部隊が、国境付近にヒズボラを近づけないために砲撃を行っています。空からは北部のリタニ川以北を指定し、民間人はそこへ退避するように指示が出されています。以上は明らかに大規模な侵攻の前兆です。
アメリカが安保理で無条件の戦闘停止に難色を示しているのは、イスラエルが地上戦を行う時間稼ぎをしているのです。もはや、地上部隊の侵攻は時間の問題です。侵入を開始したら、地上部隊はできるだけ早くにすべての目標を奪取しなければなりません。そのために、国境付近に開口部を作るため砲撃が行われているのです。
ビラを撒いたのは一般住民の保護のためです。ジュネーブ条約は非戦闘員である「一般住民」の保護を謳い、追加議定書でその義務範囲をさらに広げています。一般住民が生存するためのすべての手段を奪うような攻撃は禁止されているため、イスラエルはリタニ川以北で作戦行動を行わないことに決めたのです。イスラエルの国際赤十字への加盟は今年認められたばかりですから、イスラエルとしては上手いスタートを切りたいと思っているはずです。このことはすでに大勢の一般住民が死傷していることと矛盾しますが、空爆と地上戦とで民間人保護の限界点は大きく変わる点に注意する必要があります。より大きな被害が出るのは一般的には地上戦の方です。空爆の場合、攻撃する側には一般住民に警告を出す手段がなく、一般住民には攻撃を察知する手段がありません。空爆による被害はコラテラル・ダメージ(避けられない被害)として片づけられがちです。しかし、現在このことに対して国際社会の批判が集中しているのです。
日本のマスコミはこの事件を「報復合戦」をキーワードにして報じています。しかし、本当に心配なのはイランがこの事件にどう関わっているかです。ニューズウィーク誌7・26号はこの問題を上手く取りあげています。ヒズボラはイランの支援を受けて設立された組織です。今回使われているミサイルも恐らくはイランが提供したものです。イランはイスラエルを打倒したいと考えています。イランの革命防衛隊がイラクに浸透しているのは去年以降報じられています。イランが、イラク、シリア、そしてレバノンを経由してイスラエルに侵攻しようとしているという深刻な仮説があるのです。昨日、アメリカのニュース番組で共和党の議員がこの事件を「我が家の防犯」に例え、イスラエルの正当防衛を主張していました。これは大衆向けの分かりやすい言い訳に過ぎず、事態はそんな単純な話ではありません。
イランがヒズボラに尻すぼみになると分かっている攻撃を命じるとも思えません。しかし、この先どうするのか、具体的な動きが予測できないのも確かです。イランがレバノンまで進撃するはずもなく、このまま行くとヒズボラがイスラエルに壊滅されるだけのように思えます。一体何が起きるのか、耳を澄ましている必要があります。
幸いというか、ゴラン高原にある「国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)」の自衛隊部隊は戦火から逃れています。十数キロ離れた地点にヒズボラ側から発射されたロケット弾が着弾した程度で、戦火が向かってくる兆候は聞こえてきません。イスラエル軍もゴラン高原を戦場にするのは避けます。