自民党の次期総裁候補に、津島派の額賀福志郎防衛庁長官の名前があがっているという報道を目にして驚きました。津島派はとりあえず結論を先送りにすることにしています。しかし、つい最近、敵地攻撃論を主張したことで韓国や中国から反発を買った人物を擁立しようという津島派のセンスには驚かざるを得ません。なによりも、テポドン・ショックによって集票できると踏んだとしか思えない、その動機に問題を感じます。これでは恐怖で商品を買わせる霊感商法と大差ありません。政治家はまず、国民にろくな情報提供ができなかった事態をこそ反省すべきなのに、それをアドバンテージとして使おうとは不謹慎とも思えます。
敵地攻撃論が空論だということは、すでに書きました。無人偵察・攻撃機をタイミングよく北朝鮮全土に展開しても、成果は僅かしかあがらないでしょう。それは韓国にとっては朝鮮半島に対する武力行使であり、容認できない話でしかありません。北朝鮮問題では韓国を味方につける必要があるのに、日本はあらゆる分野で逆のことをやっています。なにより、北朝鮮のミサイル保有量はあまりにも少なくて、日本に対しては散発的な攻撃しか仕掛けられないという事実を考えるべきです。
スカッドCが300発、ノドン1が100発、ノドンBが10発といわれる保有量からどんな空襲が行えるかを想像してみましょう。スカッドCは射程距離が足りなくて日本には届きません。ノドンは日本に届きますが、精々110発では米軍と自衛隊の基地に分散しても決定的な打撃は与えられない程度の話です。テポドンは発射の準備に時間がかかりすぎるので、発射前に破壊できるため、事実上使えません。ヒズボラが、種類は違うものの、陸続きのイスラエルに撃ち込めるミサイルを13,000発を保有しているのに比べれば、スケールの小さな話です。また、これらのミサイルは一斉に発射されるわけではありません。ナチス・ドイツは製造したV-2号ロケットの半分しか発射しませんでした。手持ちカードを使い切ったら戦争は終わりですから、実際に日本に110発のミサイルが撃ち込まれる可能性は低いのです。
与野党を問わず、日本の政治家の軍事論は不十分なものが多すぎます。特に、海に囲まれている利点を生かせない人が多いのが問題です。陸続きの国とは違い、日本は戦車がいきなりなだれ込んでくるという緊張感を持つ必要がありません。この利点を生かして余裕のある防衛・外交を展開した方が有利です。ところが、それが当たり前であるために、ありがたさを自覚できないのか、むしろ逆のことをやる人が多いのが残念です。国防を家庭の防犯にたとえて、話を単純化させてはならないのです。そういう話をする政治家は信用してはなりません。重要なのは北朝鮮にこれ以上の核開発をさせず、イランとの連携を阻止することです。そのための活動は政治家も官僚も、その周辺にいる人たちも考えていません。利権のからむMDの推進にしか目が行っていないからです。