まずいことは重なるというか、当然の成り行きかも知れませんが、イスラエル軍はレバノンに対して白リン弾を使い始めたという情報があります。まだ具体的な情報は見ていませんが、GlobalSecurityにそういう情報が出ているとの記述があります。
以前、J-RCOMに白リン弾について投稿したことがあります。その時は、ネット上で白リン弾に関して実に馬鹿馬鹿しい議論を目にしたためでした。白リン弾は発煙弾なのだから殺傷制のある武器ではないとか、左翼が白リン弾を化学兵器に仕立て上げたという話をしている人たちを見かけたのです。
確かに、簡単な説明だけ見れば、白リン弾は発煙弾でしょう。しかし、大量に煙を出すには何かを燃やすしかなく、酸素に触れると燃え出す白リンは焼夷兵器としても使えるのです。信号弾として利用する場合でも、発火させた時に火が飛び散る恐れがあるため、味方の近くでは使わないようにするものです。発煙弾として使う場合、大量の白リンを燃やして大きな煙のスクリーンを作り出します。これはそのまま焼夷弾として使えるのです。
白リン弾は地面に落下してから爆発するのではなく、指定した高度まで砲弾が落下した瞬間に爆発する近接信管とのセットで使われます。こうすることで、敵の頭上に炎をばらまくことができます。「生きながら焼かれるという恐怖感」こそ、白リン弾が用いられる理由なのです。酸素が少しでもある限り、白リンは燃え続けます。皮膚に直接ついた場合は、ナイフで皮膚ごと削り取るしかありません。
私が見た議論では、白リンが体についた場合、水で洗うことになっているのだから、大して危険な物質ではないと発言する者がいました。原爆のフォールアウト(死の灰)を浴びた場合でも、最初にする対処法は体を水で洗うことです。もちろん、処置はそれだけで終わるわけではありませんし、だから原爆に危険がないとは言えません。化学系の実験室には、劇薬を浴びた場合に備えてシャワーが備え付けてあるものです。水で洗うのは基本的な対処法で、薬品の安全性を保証する根拠にはなりません。もともと、白リンは食品添加物として使われ、肥料や歯磨きにも含まれている場合もあります。花火から殺虫剤まで様々な用途に使える便利な化学物質です。
第2次世界大戦では白リン弾は都市爆撃に盛んに使われました。一晩で10万人が死んだ東京大空襲の主役が白リン弾や黄リン弾でした。ただ燃えるだけの機能しかない白リン弾は、化学反応を利用した兵器である「化学兵器」と呼ぶべきかどうかという議論はあるものの、現在、都市部に使用することが禁止されていることからも、法律上は化学兵器と考えるべきだと私は考えます。しかし、グレーゾーンの兵器であるため、軍人たちは「発煙弾は使ったが焼夷弾は使わなかった」と言い訳をするわけです。だから、それに納得してしまうのは、正しい軍事分析とは言えません。
軍事問題はこのように複雑な背景を含む場合が多いので、簡単に思えることでも、よく調べることが大事です。