戦闘再開後の戦況報道が押し寄せる前に、少し他の問題に視線を戻したいと思います。
エンタープライズの現在位置
予定通りなら7月21日に釜山を出航したはずのエンタープライズ号ですが、同艦の艦内紙「ザ・ビッグ・E・シャトル」の8月1日号が、エンタープライズは28日に香港に寄港し、一部の乗員が上陸して、地元のクリスチャン・コミュニティ・センターで奉仕活動を行ったと、写真入りの記事を載せています。この様子だとインド洋へ戻るようですが、急いで行く気もないようです。この先どう動くのか、さらに注意したいと思います。
イランのウラン濃縮停止拒否
イランが核開発を禁じる国連決議を拒否したことで、中東問題が明確になってきました。イランのザリフ国連大使は「イランの平和的核計画は国際の平和と安全に脅威を及ぼさない。イランは核の平和利用の権利を行使する決意だ」と述べたと言います。ウラン濃縮は原子力の平和利用には直接必要なく、核兵器に転用できる上、協定に違反して秘密裏に実験を行っていたことから、イランが核兵器を開発しているのは確実視されています。イランはどんな圧力を受けようとも、核兵器を開発する決意のようです。その目的は、イスラエルを滅ぼし、中東全域にイスラム帝国を作り上げることしか考えられません。現に、イランのアフマディネジャド大統領は、イスラエルを地図から葬りたいと発言しています。これは聖地の核汚染も辞さないという破滅的な考え方です。
イランの文化そのものは、彼らが生んだ芸術品を見る限り、大変に高尚なものだと思いますが、政治運動が熱病のように広がると、ナチスが勃興した時のように止めようがなくなります。こうした動きの背景には、自国民の弱さに対する自覚と防衛意識があります。これは使命感となって運動を肯定し、広めるのに貢献します。特に、イスラム教は人間を欲望から遠ざけ、正しい道を歩ませようとする宗教であり、悪だとみなしたものに対して戦う義務を教徒に課しています。これは地域の安定のための習慣ですが、場合によっては排他的な傾向を増長します。イスラム教には寛大な人々も多く、よしとしたい習慣も多くあるため、過激主義に染まってほしくありません。
さらに周辺国の介入が事態をさらに複雑にします。最近、ゴラン高原でイスラエル軍のパトロールを狙ったシリア製のIEDが爆発したという情報があります。これに応えるような形で、エフド・バラク元首相が、ヒズボラを支援するシリアとイスラエルが武力衝突に引きずり込まれる恐れもあると発言しました。これにアルカイダとクルド人問題が加わります。
イラク国内のテロは激化しています。6月6日には、バグダッド市内で戦闘中のM1A2がIEDで破壊され、中尉を含む2名が死亡しています。武装勢力には、依然として大型のIEDを戦車が通る道に埋める余裕があります。イラク戦こそルーチン化に陥った戦いかも知れません。延々とこのパターンが繰り返されるだけです。この月は戦死者の73%がIEDで命を落としており、他の月の1.5倍を示しました。民間人への攻撃も増える一方で、今年初めに言われた、兵力の削減は難しい状況となりました。
いますぐではないにしろ、中東が重度の紛争状態になる可能性が高まっています。こういう時こそ、日本はイスラエルとアラブの和解という難題の解消に挑戦してほしいところですが、すでにイラクに自衛隊を派遣したため、アメリカ寄りの立場が払拭できない状態に陥っています。
イランと北朝鮮の関係は?
そして、イランと北朝鮮との連合がどんな形になるのかが問題です。それに対して、中国とロシアがどんな態度に出るのかも重要な要素です。これらのポイントに注目して情勢を見ていく必要があります。
韓国の太陽政策も難しい時期に来ています。北朝鮮は韓国の要請には耳を貸さないくせに、開城(ケソン)に作った工業団地の開発だけは続けると、韓国に通告していると聞きます。これは38度線の北に鉄道を敷き、そこに南北合同の工業団地を建設する構想です。資本と技術は韓国が負担し、北朝鮮は土地と労働力を提供するという、北朝鮮にとって都合の良い条件を用意したというのに、北朝鮮は韓国に背中を向け続けています。衛星写真で見ても、とても立派な施設で、コンビニまで完備しているそうです。私は昨年、38度線を見学した際、この鉄道も見学してきました。韓国は鉄道を整備し、38度線に近い街に住居を建設して、工業団地の開発に備えています。肯定的に考えれば、開城から南北和解が進むことも考えられますが、北朝鮮に利用されるだけに終わる危険もあります。
中東の混乱と日本の隣国が密接につながっているという構造は、かつてありませんでした。日本は安全保障で極東だけを見ていれば済んだ時代は終わったのだと思います。
再開された地上戦の展開は?
イスラエルは、リタニ川以南を5個旅団で占領し、国連軍が到着するまでヒズボラが進出しないように監視する方針を決めたといいます。3万人以上を動員したという話からすると投入する兵力が少ないのが気になります。すでに3個旅団の投入が確認されているのですから、これに3万人を加えればイスラエルが言う数倍にはなりますし、5個旅団では目標を達成するためには不十分です。現在、7カ所から進撃を始めたという報道が入ってきていますから、ビントジュバイルへの道路以外の場所でも進撃を始めたようです。これも想定内の動きです。第一段階は、ヒズボラが防御戦と考えているクレイラからホウラに至る道路まで進撃するつもりでしょう。海岸線の道路も占領するつもりでしょう。港町ティール(Tyre)はヒズボラの拠点でもありますから、ここを抑えたいと考えるはずです。それにしても、定石通りで分かりやすい作戦の展開です。これはイスラエルが戦術を研究している証拠でもあります。