昨日行われた米国防総省ミサイル防衛局のミサイル迎撃実験が成功しました。当初、この実験はデータ収集が主目的で、命中させることは二の次と報じられていました。
ワシントン・ポストの記事から、ポイントとなる数字を拾ってみました。アラスカ州のコディアック島から標的ミサイルが発射され、17分後の午前10時39分、カルフォルニア沿岸にあるバンデンバーグ空軍基地の地下サイロから迎撃ミサイルが打ち上げられました。ミサイルには冷蔵庫サイズの迎撃発射体(キル・ヴィークル)が搭載されており、時速2,897kmの速度で、全長1.2mの模擬弾頭を目指しました。迎撃ミサイルは13分間飛行し、バンデンバーグ西方数百マイル(160km以上)の位置、160km以上の高度で、標的ミサイルと迎撃ミサイルの両方が破壊されました。
実験の環境は比較的標準的なものです。また、今回の実験で重要なのは、実はビエル空軍基地にある早期警戒レーダのデータを迎撃ミサイルに送って標的に誘導する最初の実験だったということです。成功したのはこのレーダのお陰かも知れないので、今後の実験の成功率には注意が必要です。正確な評価はこれから数週間かけて行われる検証で明らかになるのですが、結果は簡単な文章で公表されるだけです。この分野は機密事項が多く、イージス艦のミサイル探知能力はどれくらいかは一切公開されていません。
1999年以来、9回の迎撃実験が行われ、5回成功しています。今年の終わりか来年はじめに、実弾を用いた迎撃テストが予定されています。これは標的用ロケットではなく、実戦配備中のICBMを迎撃するテストだと想像されます。この調子で行くと、2発撃てば迎撃できるようになると思われますが、問題は欺瞞装置が使われた場合に迎撃率がどうなるかです。弾頭が切り離されたあと、チャフ(金属片)やその他のレーダーを攪乱する装置が発射されると、迎撃ミサイルは囮を追いかけ出すかも知れません。こうした安価な欺瞞装置を北朝鮮が使わないとは考えられません。欺瞞にはミサイル1基に複数の弾頭を搭載する多弾頭化という方法もありますが、北朝鮮がこの技術をすぐに開発できるとは考えにくいものがあります。
この実験の結果を見ても、現在はミサイル防衛の基礎技術を磨いている段階で、実戦レベルにはほど遠い状態です。実験後に記者会見したオベリング・ミサイル防衛局長が、「(テポドン2号を迎撃する)チャンスがある」と述べたのは、チャンスはゼロではないという意味に受け止めるべきです。PAC3で撃ち漏らした弾頭を破壊できるかも未知数ですし、PAC3では広範囲を守れません。まだ、ミサイル防衛は発展途上の段階にあります。
キューバ危機がそうであったように、将来のミサイル危機は人的な活動によって解決されるかも知れず、それが理想的です。日本にその準備ができていることを示せる政権が生まれてほしいものです。