防大校長が小泉政権を批判

2006.9.8

 小泉メールマガジンに、防衛大学校長の五百旗頭真氏(いおきべ まこと)が小泉総理の靖国参拝を批判した小論を寄稿したという報道がありました。私も、靖国参拝は日本のアジア外交にマイナスとなっていると考えています。しかし、この小論で私は別のところに目が行きました。

 ちなみに私はイラク戦争が間違った戦争であると判断し、筋目の悪い戦で米国と一緒してもきっと後味悪い結果になると憂慮した。間違った戦争であることは、その後ますます明瞭となったが、イラクに派遣された自衛隊に悲劇は起こらなかったし、日米関係も悪化しなかった。

 それどころか、小泉首相は自らの任期中に陸上自衛隊をサマワから見事に撤収した。しかも対米関係をこじらせることなく、ブッシュ政権から称賛を浴びながら。この魔術に対しては脱帽する他はない。
(小泉内閣メールマガジン 第248号より)

 上記の意見については、イラク戦争が筋目が悪いという点で同意できます。まさに、私もイラク戦争を「筋の悪い戦争」と呼んでいました。しかし、サマワ派遣を結果論で判断することには同意できません。もともと、政府はサマワではなく、ティクリートに派遣しようとしていました。そこで米軍への給水活動という明確な後方支援活動をさせようとしたのです。これは、機雷の除去や復興支援という枠組みを超えた露骨な武力派遣でした。そもそも、政府にはこの二つがまったく意味が違うことすら気がついていなかったのです。ティクリート派遣に反対したのは陸上自衛隊でした。次の候補のサマワが、上手い具合に周囲が平坦で、武装勢力が近づきにくい場所だったから悲劇は起こらなかったのです。また、撤退を見事にやり遂げたのは、小泉政権ではなく、自衛隊の諸君です。

 日本はついていただけです。戦争という、運が結果を左右する問題において、運に任せた戦争指導が誤っているのは当然です。また、日本社会の性質という点で、サマワ派遣は大きな問題を残しました。それは前例主義です。かつて、日本が満州に最初の開拓団を送り込んだ時、様々な問題が起こり、小さな移民団は大変な苦労に直面し、一部は絶望から犯罪に走りました。移民計画を最初から考え直すべき時でしたが、国策として決定したことに誤りがあるわけはないというのが当時の考え方でした。議会が決定し、天皇が裁可したものに誤りがあったとなれば、天皇の神聖が犯されることになり、それは容認できないことだったからです。結局、移民計画は規模を拡大して継続されることになり、最終的には大戦へと発展していきました。イラク派遣で、すでに日本政府は何が戦闘行為か分からないという誤りを犯したのです。今後、さらに激化すると予想される対テロ戦争において、政府が道を誤らないわけがないと考えざるを得ません。

 政権が終わるからと言って、小泉総理が決めた政策が終わるわけではありません。靖国問題も、サマワ派遣も、今後の日本に色々な形で影響を残すのです。私は、総理を辞めた小泉氏が、今後も靖国神社を万難を排してでも参拝するとは信じていません。国会で、イラクのことは詳しく知らないという答弁をした小泉氏が、今後もイラクの民主化に関心を払い続けるとも思えません。世間の評価だけを考えて、むしろ問題を大きくした罪は消すことはできないと考えます。しかし、大衆の多くは、そういう小泉総理を支持し続けました。戦前にも大衆の中に、草の根の軍国主義があり、日本が危険な方向に進むのをむしろ促進しました。いま、私は似たものが現在の日本社会にあると思います。そうなると、人々は理性的な戦略・戦術論に耳を貸さなくなるでしょう。その先にあるものは、もはや説明する必要もありません。

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