昨日、額賀防衛長官が定例記者会見で、7月5日の北朝鮮のミサイル発射に関する報告を行いました。どうやら、報告書は出ず、代わりに長官が会見で答えることになったようです。1ヶ月以上、この報告書を待ち続けた私としては、気分はよくありません。とりあえず、要点をまとめ、私見を付記しました。
- テポドン2は、発射後、数十秒で数kmの高さで、空中分解した。第1段目を分離せずに、発射地点の近傍に墜落した。
防衛庁は1段目と2段目が分離しかかったものの、一体のまま墜落したと考えたようです。そうすると、1段ロケットのエンジンが停止した可能性が高いのですが、それなら空気抵抗も小さいため、空中分解にいたるとは考えにくいことになります。1段目が燃焼中に接合部が折れ曲がってからエンジンが停止するのは、考えにくいことです。
- その他6発は、旗対嶺から東北方向に約400km前後飛び、日本海上に着弾。これらの6発の弾道ミサイルについては飛翔した距離に大きな差異がなく、ノドンあるいはスカッドミサイルと考えられる。
これはおおむね発表の通りで、異論はありません。
- 6発のミサイルは、一定の範囲内で着弾していること、夜の時点から明け方に行われていること等々、また発射台つき車両から行われていること等から、極めて実戦向きではないかと分析できる。
額賀氏独特の修辞的表現だと思います。「一定の範囲内で着弾していること」は確かに実戦向きの理由になりますが、どれだけの範囲内に着弾したかは明確ではありません。10km圏内に多くが着弾し、30km以内にすべてが着弾しているという情報はありますが、これなら精度がよいとは言えない範囲です。また、「夜の時点から明け方に行われていること」は軍の能力として当たり前であり、「発射台つき車両」は前から分かっていることですから、大した理由とは言えません。
- ノドンとスカッドの分類については、極めて、発射距離、飛翔距離が近いということから、区分けは今の時点で困難。日本の情報収集能力を秘匿するために公表しない。
結局、ノドンとスカッドの区別はつかなかったことになります。これはミサイル防衛能力の限界を物語っています。現在の探知能力では、ミサイルの種類までは時間をかけて解析しても分からないのです。ミサイル迎撃はどんなミサイルが飛んできたのかが分からないままに実施されるということです。
- テポドン2は、第1ブースターが分離されなかったのだから、第1ブースターのエンジンのトラブル、あるいはまた制御装置の不具合等々が考えられるが、今後も分析を要する。
まるで意味不明です。1段ロケットの分離にエンジンの不具合は直接関係がありません。また、制御装置が姿勢制御を司る管制装置を意味するのかがよく分かりませんが、まず接合部の強度不足を疑うべきだろうと考えます。
- スカッドが新型であったかどうかは、ノドン、スカッドの弾種の決定も断定できないため、差し控えたい。
遂に、新型スカッドの話がトーンダウンしました。こういう話は大勢の関心が集まっている時に口にした方が勝ちなので、かなりの人が新型スカッドが存在すると信じ込んでしまったことでしょう。この記者会見を報じるマスコミはほとんどないでしょうから、大衆は修正された事実を知らず、「北朝鮮のミサイルは精度が高い」と信じ込んで終わるのです。