北朝鮮の核実験:政治的な影響について

2006.10.10

 今度は、北朝鮮の核実験に関する政治的な動きを考えてみます。

 アメリカの制裁案で重要なのは、北朝鮮に出入りするすべての船舶の臨検が含まれていることです。これは、船で核爆弾が海外へ搬出されることを防ぐために有効な手で、北朝鮮とイランの連携を壊すのにも有効です。これは国連憲章第41条で実施できますし、ロシアが賛成する可能性が十分あります。今回、ロシアが制裁に賛成する動きがあるのは重要なことで、ロシアと中国の間で交渉が行われ、それが安保理決議に影響を及ぼす期待が持てます。北朝鮮が実験の直前にロシアと中国に通告したのは、両国からの支持を期待していたからでしょう。しかし、ロシアは態度を硬化させました。これは北朝鮮にとって予想外だったかも知れません。中ロにとって、北朝鮮が「核クラブ」に入ることは望ましくありません。両国は制裁の方向では動きますが、問題はその程度です。しかし、それは7月の段階からはかなり北朝鮮に不利になっています。ここ数日のうちに核実験の確証が得られ、その後の数日間で制裁の内容が決まることになります。その成り行きに注目しましょう。とにかく、中国に「これまであなたたちは北朝鮮に甘すぎた」と言ってやるべき時なのは間違いがありません。

 今回の事件は韓国にとって相当な衝撃だったようです。朝鮮日報は激しく盧武鉉政権を批判し、北朝鮮が崩壊の方向へ向かうと書いています。盧武鉉大統領はブッシュ大統領との電話会談で、第7章がらみの国連決議でも支持すると答えています。これは第42条の武力行使も肯定するという意味ですから、非常に厳しい態度だといえます。開城工業団地事業についても、まだ明言はしていないようですが、中止の方向へ動いているようです。金剛山観光も恐らくは中止となるでしょう。すでにセメントの輸出を中止したという情報もあります。韓国が態度を明確にしたことで問題はひとつ前進しました。いよいよ中国の態度が重要になりました。

 日本と言えば、現在の国民保護計画が馬鹿馬鹿しいものであることを露呈してしまいました。ミサイル攻撃を受けたら、屋内に避難し、その後、政府の指示で自治体が避難を実施する方法は核攻撃にはまったく不適切なのです。先日、指摘したように、防災シェルターがないと核攻撃では大きな被害を出しますし、避難のために屋外に出ること自体が危険です。要するに、核攻撃を受けたら、その場で死ねと言うのが現在の国民保護計画の骨子です。国民保護計画の一角であるミサイル防衛は、単にアメリカの最先端兵器のユーザーになりたいという動機で策定され、本当に攻撃を受けるとは誰も考えていなかったのです。しかし、それが現実化する日が刻々と近づいているかも知れないところまで来ました。今後、地方自治体の議会で、こうした議論が増えるに違いありません。意味もない国民保護計画を実施しなければならない自治体は、政府が新しい計画を示すべきだと考えたくなるはずです。国会では、必要な技術開発は国民保護法下で可能であるという答弁が繰り返されてきましたが、実際には何もしていません。誰も何も考えていないのに、表向きだけもっともらしい議論を繕って済ませてきたのが日本の危機管理の実態です。その象徴がミサイル防衛です。ある政治家はこう言いました。「国民を守る立場にある者にギャンブルは許されない」と。しかし、防災シェルターなしで迎撃ミサイルだけ用意するという国策こそリスクの高いギャンブルに他なりません。

 それから、北朝鮮から発信された声明の中に、「今後、ミサイルに搭載できる弾頭を開発することになる」という言葉が含まれていたことが気になります。逆に見れば、現在はミサイルに搭載できる核弾頭はないとも受け取れます。単なる言葉のあやである可能性もあるものの、これが真相かも知れないとも思えます。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.