北朝鮮の核実験:狙いはやはり対米交渉か?

2006.10.11

 今日の報道を見ると、北朝鮮の狙いが次第に分かってきました。やはり、アメリカとの直接交渉に主眼が当たっているようです。

 まず、北朝鮮が中国に事前に通告した実験の規模は4ktだったことがアメリカ筋の情報で明らかになりました。アメリカは実際に爆発はそれよりも小さかったと見ており、実験は失敗だったとの見方に傾いているようです。もう一度各国の推定を並べてみますが、かなりのバラツキがあり、4ktを達成した可能性も否定できません。

ロシア 5.0 〜 15.0
韓国  0.8 〜 5.0
日本  0.5 〜 3.0
米国  0.2 〜 0.5
(単位・kt)

 それよりも、事前に予想された15〜20ktの爆発力が実際には4ktだったことに注目すべきです。誰もが北朝鮮が戦略核兵器を開発していると信じ込んでいたのですが、実は戦術核兵器だった可能性が出てきたからです。つまり、事前の想定をすべて根底から覆す要素が出てきたということです。北朝鮮の狙いも最初から考え直さなければならなくなりました。

 4ktというのは榴弾砲で撃ち込む砲弾型の戦術核兵器と同等の威力です。核ミサイルで、これほど小さい核爆弾はありません。ヒロシマ・ナガサキ型原爆が15〜20kt程度であることから、大都市を一発で壊滅させるには、少なくともこれ以上の爆発力が必要です。高層建築が増えた現代においては、爆発力はより大きなものが求められます。それを4ktに設定したというのは、その意図を図りかねます。

 理由としてまず考えられるのは、戦略核兵器を開発すると本格的にアメリカが締め付けてくるので、戦術核兵器にしたということです。しかし、これは核兵器はどんなに小さくしても大量破壊兵器であるということを無視しています。たとえ、4ktでもアメリカは容赦しないでしょう。北朝鮮が自衛のためだけに使うと宣言したところで、海外に運び出してテロに使う可能性を否定できないからです。つまり、北朝鮮は大きな誤算をしたことになります。

 もう一つは、ミサイルに搭載できる小型核爆弾を開発しようとしたということです。榴弾砲の砲弾は精々200mm程度なので、そこまで小型化できないからミサイルに搭載しようという発想です。小型化するにはインプロージョン方式(爆縮式)よりも、ガン・バレル方式の方が適していますが、これは濃縮ウランを持っていないと作れないのです。この場合、韓国軍と米軍が38度線を越えてきたらスカッドミサイルで核攻撃するという方法が考えられます。米韓軍の戦線に大きな穴を開け、その立て直しのために前進を停止させることを狙うわけです。4ktの核爆弾も十分に強力ですが、1,000km以上飛ばして日本に撃ち込むというのは間尺に合わない話で、空襲用とは言えません。ただ、精度の悪い北朝鮮のミサイルとしては、威力の大きい核爆弾の方が精度の悪さをカバーするのに適しています。それなのに小型の核爆弾を開発したことには疑問を感じざるを得ません。このため、ミサイル搭載説は若干説得力を失います。

 あるいは、開発した核爆弾が初期型ではなく、次世代のものだということを証明し、技術力を誇示するという狙いも考えられます。ナガサキ型原爆でどれだけのプルトニウムが使われたかは不明ですが、1kg程度のプルトニウムが核爆発し、20kt程度の爆発力を生じたと考えられています。臨界と核爆発は分けて考える必要があります。核爆発になるためには臨界状態になる必要がありますが、臨界はいわば燃えているような状態で、爆発現象ではありません。プルトニウムの臨界量は5kg程度で、大型小型いずれの核爆弾を作る場合でも、基本的な臨界量は必要です。大型にする場合は、別の熱核物質を核物質に混ぜ、小型にする場合は反応する核物質の量が減る構造にします。4ktの爆発を起こすには、プルトニウムの反応量を200gにさげるのです。この技術を本当に実現したのなら、ナガサキ型原爆ではなく、その次の世代の原爆を北朝鮮が完成させたことになります。初歩的な核爆弾だという推定は捨てる必要があります。ただ、爆発力が小さいからといって、ミサイルに搭載できる核爆弾だとは言い切れないことにも注意が必要です。

 さらに、ミサイルに搭載できるように小型化しようとしたら、威力の小さな核爆弾になってしまい、「帯に短したすきに長し」となってしまった可能性もあるように思われます。

 とにかく、北朝鮮が小型の核爆弾を作ろうとしたということを、考察に含めて今回の事件を考えなければなりません。おそらく、北朝鮮はアメリカを最大限刺激しない形で核実験を見せつけたかったのです。今日になって、北京駐在の北朝鮮当局者の言葉として、「今後の核実験の可能性は政治外交的判断によって成り立つ」と述べたといいます。本当かどうか分かりませんが、核実験をやってアメリカから何らかの譲歩を引き出したい北朝鮮の意向がうかがえます。そうだとすれば、軍事的な脅威は一段低くなりますし、北朝鮮の厳しい経済事情に目を向けるべきということになります。

 それからこの際、言っておきたいのですが、在日朝鮮人へのヘイト・クライムが急増しています。馬鹿な行為を行う前に、冷静に事態を分析することが必要です。怒りにまかせて行動するエネルギーがあるのなら、事態をよく考えてみるべきです。それが意味のない行為だということがすぐに分かるはずです。

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