中国が国連憲章第41条での制裁に賛成すると明言し、ロシアがまだ態度を未表明という段階まで来ました。しかし、中国が第41条に賛成したことから、ロシアもそれ以下の制裁を示すことはできないでしょう。
第41条は経済制裁ですが、臨検のための武力行使は可能と解釈されています。つまり、停船命令に応じない船舶に対する実力行使を容認します。日本の制裁案に臨検が含まれていないのは、日本の国内法とのからみで現状では臨検が行えないためです。これについては、昨日の参議院予算委員会で政府見解が出ています。中国が第41条に賛成するのは、アメリカだけに臨検をさせるのではなく、自分もからんでおいた方が事態をコントロールしやすいと判断しているのかも知れません。
臨検は北朝鮮にとっては厳しいことです。偽タバコや偽造紙幣の運搬に支障が出ますし、以前に紹介したコンテナ・シップ(貨物船のコンテナにノドン・ミサイルを隠して米本土に撃ち込む想定上の戦法)も不可能になります。北朝鮮の貿易の実態もかなり把握されてしまいます。気になるのは中国が第41条には賛成しながらも、臨検には反対しないかということです。その危険性は小さいと思いますが、条件つきの賛成である可能性はまだ疑う必要があります。(追記 記事を掲載後、正午前のニュースで、中国が臨検に難色を示していることが分かりました。やはりという気持ちです。13日の採決も難しそうです)
気になるのは、北朝鮮が臨検を突破する可能性です。北朝鮮船が停船命令に応じない。米軍が舵とスクリューに向けて発砲。海兵隊が乗り込んだところで北朝鮮が発砲。こんな状況になれば、そのまま北朝鮮とアメリカは戦争状態になるでしょう。
昨日のテレビを見ていると、キューバ危機と対比する意見が聞かれましたが、それは間違っています。キューバ危機は核ミサイルでアメリカ本土が直接脅かされる事件でした。現在、北朝鮮にはアメリカまで届くミサイルはなく、攻撃を受けたとしても在韓、在日米軍、悪くてもグアムが攻撃を受けるだけなのです。核爆弾もまだ開発途上で、その爆発力は1ktを下回るかも知れません。アメリカはやろうと思えば北朝鮮を核攻撃できます。ミサイル迎撃にしても、アメリカはもしかすると撃墜できるかも知れないのに対して、北朝鮮は対処手段をまったく持ちません。北朝鮮にできるのは、精々、在韓、在日米軍、韓国軍に対してテロ攻撃を仕掛けることくらいです。しかし、それをやれば米軍の徹底的な空爆を招き、対抗手段がないことが北朝鮮国民の前にあからさまになります。アメリカは空爆だけを行い、北朝鮮国内で何が起きるかを耳を澄ませる方法を選ぶでしょう。つまり、即核戦争という状態ではないため、キューバ危機とは性質がまるで違うのです。
安倍内閣メールマガジン創刊号は、北朝鮮への制裁に関する記事となりました。しかし、防衛庁長官が24時間常に防衛庁と連絡が取れない態勢が続いていることが明らかになりました。これは私が80年代に読んだ本にも書いてあったことです。核実験を目の前にしても、ミサイル防衛だけで十分だと政府が考えていることも分かりました。危機管理に対する取り組みは依然として不十分です。しかし、それを批判したマスコミはほとんどありません。マスコミも判断する基準を持っていないのです。だから、安倍内閣は未だ危機管理対策の進んだ政権という認識が世間で通るわけです。
ただ、重村智計教授が述べた、北朝鮮の経済状況は今年末までに危機的になるという話が、状況にどういう影響をもたらすのかが気になります。核実験が北朝鮮の最後の手段なら、当然決定的な動きが起こるはずです。もっとも、北朝鮮の危機的状況はもう何年も聞かされ続けているのですが。