イスラエル軍が白リン弾使用を認める

2006.10.23

 イスラエル紙ハーレツによれば、イスラエルは今年のレバノン戦争で白リン砲弾を「開墾地にいる軍事目標に対して」使ったことを認めました。証言したのはヤコブ・エデリー無任所相で、先週の国会審議で述べたとのことです。これで、これまでは疑惑のままだった白リン弾使用は、その事実が確定されました。

 白リン弾は現在のところ化学兵器とはみなされていません。白リン自体は多目的に使える物質で、リンの化合物はさまざまな工業製品に使われており、農薬から洗剤、殺虫剤、食品など実に用途は多様です。この性質は兵器になっても同じで、照明弾、煙幕弾、焼夷弾など、さまざまな用途があるのです。しかし、いずれもリンが酸素に触れると発火する性質を使っている点は同じです。

 照明弾は焼夷兵器ではないから、白リン弾は焼夷兵器ではないという意見は勉強不足の産物です。確かに、発煙手榴弾にも白リンが使われていますが、これは合法的に認められています。記事の末尾に「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」の第1条を記載したので、それを見てください。焼夷兵器には例外規定があり、その中に照明弾や発煙弾が含まれています。化学兵器禁止条約でも、化学反応を利用していても、その目的や効果によっては使用が認められる兵器があるように、焼夷兵器の規定でも白リンを用いているだけでは焼夷兵器とはならないのです。陸上自衛隊の装甲車の車外には発煙弾の発射機が搭載されています。この発煙弾も白リンを使っていますが、焼夷兵器、化学兵器のいずれにも該当しません。これは通常、自軍の目前に発射して視界を遮る機能しか持たないため、一般市民を虐殺するような危険性が低いと考えられるからです。もちろん、砲弾として発煙弾を持っている場合は遠方に撃ち込むこともできますが、この場合も、焼夷兵器、化学兵器のいずれにも該当しません。

 実のところ、白リン弾の分類は時代によっても異なり、化学兵器に分類されていた時代もあります。旧ソ連軍は白リン弾を化学兵器とみなしていました。一般的には、化学兵器は毒ガスのような兵器を指すとみられています。化学兵器禁止条約でも、化学兵器の定義は「毒性化学物質及びその前駆物質」を用いた武器を基本としています。さらに、同条約は「毒性化学物質」を「生命活動に対する化学作用により、人又は動物に対し、死、一時的に機能を著しく害する状態又は恒久的な害を引き起こし得る化学物質」としています。化学兵器禁止条約に関連する国内法である「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」でも、「人が吸入し、又は接触した場合に、これを死に至らしめ、又はその身体の機能を一時的若しくは持続的に著しく害する性質」とし、これを使用した兵器を化学兵器と定義しています。こうしたことから、単に燃えるだけの白リン弾は化学兵器ではないと考えられています。しかし、国際赤十字社や人権擁護団体は長い間白リン弾を化学兵器禁止条約によって禁止すべきだと主張してきました。この事実を無視して、白リン弾を化学兵器ではないと即断することはできません。

 白リン弾は他の兵器に比べると発火性が強く、簡単に威力を強くすることができます。第2次世界大戦中、ドレスデンに投下された白リン弾にはゴムが混ぜられていたといいます。白リンが燃える熱で溶けたゴムは人体や建物に張り付いて、強い粘着性を発揮しました。白リンぬぐっても取れず、水につける以外、火を消す方法はないため、大きな被害をもたらしました。「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」では、発火性の強い兵器でも「焼夷効果が付随的である弾薬類」他1種の兵器を例外と認めており、照明弾、曳光弾、発煙弾、信号弾、または徹甲弾、破片弾、炸薬爆弾を焼夷兵器から除外しています。このため、大型の発煙弾は合法的に非焼夷兵器の扱いで使えるのです。前記条約は、ファルージャで米軍が用いたように、人口密集地にある軍事目標を焼夷兵器で攻撃することを禁じていますが、発煙弾で攻撃するという名目で実施できるのです。エデリー無任所相が「開墾地にいる軍事目標に対して」と述べたのは、このことを明確にするためです。また、多くの軍人は、発煙弾を即席の焼夷兵器として使えることを知っています。軍事目標を狙ったつもりが一般市民に大きな被害をもたらすことは少なくありません。だから、白リン弾はグレーゾーンの兵器なのです。国際赤十字社など国際援助団体は、こうした事情をよく理解しており禁止兵器にすべきだと主張しているのです。

 日本はこうした国際的な議論に積極的に関わっていくべきですが、国会議員の中でこうした分野が得意な人はごく一部です。それどころか、隣国が核実験をした途端に核装備を口にするなど、勘違いの激しい人が多く見えるのは残念なことです。マスコミがほとんど取りあげないところを見ても、国民的な関心が低いのも明らかです。

焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)

第一条 定義
この議定書の適用上、
1 「焼夷兵器」とは、目標に投射された物質の化学反応によって生ずる火炎、熱又はこれらの複合作用により、物に火炎を生じさせ又は人に火傷を負わせることを第一義的な目的として設計された武器又は弾薬類をいう。
(a) 焼夷兵器は、例えば、火炎発射機、火炎瓶、砲弾、ロケット弾、擲弾{擲=てきとルビ}、地雷、爆弾及び焼夷物質を入れることのできるその他の容器の形態をとることができる。
(b) 焼夷兵器には、次のものを含めない。
(i) 焼夷効果が付随的である弾薬類。例えば、照明弾、曳光弾{曳=えいとルビ}、発煙弾又は信号弾
(ii) 貫通、爆風又は破片による効果と付加的な焼夷効果とが複合するように設計された弾薬類。例えば、徹甲弾、破片弾、炸薬爆弾{炸=さくとルビ}その他これらと同様の複合的効果を有する弾薬類であって、焼夷効果により人に火傷を負わせることを特に目的としておらず、装甲車両、航空機、構築物その他の施設のような軍事目的に対して使用されるもの
2 「人口周密」とは、恒久的であるか一時的であるかを問わず、都市の居住地区及び町村のほか、難民若しくは避難民の野営地若しくは行列又は遊牧民の集団にみられるような文民の集中したすべての状態をいう。
3 「軍事目標」とは、物については、その性質、位置、用途又は使用が軍事活動に効果的に貢献する物で、その全面的又は部分的な破壊、奪取又は無効化がその時点における状況の下において明確な軍事的利益をもたらすものをいう。
4 「民用物」とは、3に定義する軍事目的以外のすべての物をいう。 5 「実行可能な予防措置」とは、人道上及び軍事上の考慮を含めその時点におけるすべての事情を勘案して実施し得る又は実際に可能と認められる予防措置をいう。

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