アフガニスタンに派遣されたドイツ軍兵士が頭蓋骨を手に持ったり、自分の性器に近づけた写真を撮影し、新聞に掲載された件がドイツで問題になっています。事件自体に軍事的な意味はありませんが、ドイツにとって、軍の海外派遣にストップがかかりかねない問題です。
ドイツは戦後、なんとかしてナチス時代の負い目を振り落とし、国際社会への復帰へ努力してきました。国家元首自らが周辺国に謝罪を繰り返し、国軍の活動範囲を国内だけに限定し、対テロ部隊を創設する時はイギリス人指揮官を招へいするなど、周囲に神経を使い続けてきました。その結果、先のワールドカップでは変なナショナリズムに走ることなく国民が一致団結できたと、ドイツ人自身が自己評価を下せるまでになりました。それを馬鹿な兵士の行為が一瞬で破壊したのです。それは、「ドイツはナチス時代と一つも進歩していない」と思わせるに十分なスキャンダルでした。現在、事件に関わった2名の兵士の事情聴取が行われており、その結果をドイツは待っているところです。
こうした事件が起きる背景も、軍事問題を考える上で重要です。戦場は平時とはまったく違う場所です。通常なら許されないことが許され、通常なら与えられない権限を行使することが求められます。それは、若者に「自分は偉くなった」と錯覚させるに十分なものなのです。普通なら裁判所の礼状を持った警察官しか許されない私邸への立ち入りも、戦場の兵士には許されます。兵士は常に戦場では主導権を持つことが求められるため、普段は控えめな兵士でもそれが当たり前だと思うようになります。占領地の人々の持ち物を奪うのは当たり前になり、それを本国に仕送りする者まで出ます。かつてニューヨーク市でも、警察官が事件の捜査で立ち入った家から物を盗むといったことが起きたことがあります。その当時はギャングの勢力が強く、警察官の士気が著しく低下していたといいます。軍の派遣は「国益のため」だけと考えがちですが、それ以外の重大な要素も見逃せないのです。