military.comによると、最近、ブッシュ大統領がイラクのマリキ首相とビデオ会議を行い、早急にイラク軍の指揮権をイラク政府に移譲すると約束しました。
マリキ首相は、この会議でブッシュ大統領に不満を伝えたといいます。今日、時事通信は、イラクのザウバエイ副首相(治安担当、スンニ派)が「政府は完全な治安権限を握っておらず、多国籍軍が好きな時に介入してくる」と述べたと報じています。今回の確約は、こうしたイラク側の不満に答えたものです。
多国籍軍司令ケイシー大将は治安権限移譲には「1年から1年半かかる」と述べており、ブッシュはこれよりは遅らせないと示唆したと考えられます。来年早々に、米軍とイラク軍の合同作戦室を設けるとも約束したのは、その一環でしょう。しかし、その時期は明確にはなっていないようです。
こうした行程表はホワイトハウス側でも検討されていました。23日、スノー米大統領報道官が行程表を作成中だと述べています。しかし、イラク政府が年内に民兵組織を武装解除という予定はまったく現実感がありません。米兵の今月の累積死者は先の土曜日の段階で98人を超え、今ごろは100人を超えているでしょう。誘拐されたイラク警米兵士は未だに見つかっていません。
最近の事件を見ると、イラク南部バスラ付近で警察学校から17人の警察官が誘拐されて殺害されました。バグダッドではロケット弾で1人が死亡、35人が負傷する事件が起こり、さらに処刑された死体が10体、バグダッド周辺で発見されました。その他の地域でも11人のイラク人が殺害されました。
この状況で、どうやって武装勢力を武装解除するというのでしょうか。スンニ派とシーア派の対立を解消するだけでも不可能に近いことです。武装勢力の攻撃方法で襲撃型が増えたということは、イラク軍が創設される前、イラクの自由作戦が終了してからしばらく経ってからの状況に近くなったということです。イラク軍が治安を監視しているのに、なぜ襲撃型の攻撃が増えるのでしょうか? ブッシュの約束が実現するとは考えにくいものがあります。ケイシー大将が示した期日も怪しいものです。共和党のション・マケイン上院議員は最近、さらに2万人をイラクに増派すべきだと発言しましたが、それで治安が回復するかは疑問です。
随分前に、イラクに民主主義を打ち立てるには米軍の派遣は必要だと言う人と話をしたことがあります。その人は民主主義に対して強い思い入れがあり、自説を主張するためにもこう言わざるを得なかったようです。しかし、この発想で戦争を考えると、現在のイラクを招くのです。戦争で働く力学は信頼関係で成り立つ民主主義とはまったく別物です。このことを認識した上で、最も望ましい選択肢を選ぶのが戦争を考えるということなのです。