イスラエルの核兵器使用疑惑の元になった28日付けのインデペンデンス紙の記事を読んでみました。ひょっとすると、国内報道は誤訳に基づいているのではないかと考えたためです。しかし、間違いなく濃縮ウランが検出されたという記述があることが分かり、新型兵器の可能性を否定できなくなりました。この記事を書いたのは同紙の有名な中東特派員ロバート・フィスクで、記事には誤った記述もありました。しかし、濃縮ウランの検出については、英政府によって確認されており、間違いはなさそうです。記事に引用された科学者の言葉が正確である限り、新型兵器が使われた可能性は否定できません。いずれにしても、さらなる調査を待つ必要がありますが、国内報道は省略されすぎで微妙なニュアンスが伝わらないと考えたので、あまりやりたくはないのですが、記事の全文を掲載します。この際、つまみ読みしても意味はありません。赤字部分は私が追加した訳注です。
イスラエル秘密ウラン爆弾の謎
レバノン攻撃がのこした放射線の遺産を警告する
イスラエルはこの夏、民間人1,300人以上のレバノンの生命を犠牲にした南レバノンへの34日間の攻撃で、ウランをベースとした新しい秘密兵器を使ったのでしょうか?
我々は、イスラエル人がヒズボラのベイルート本部にアメリカ製の「バンカー・バスター」爆弾を使ったことを知っています。我々は、戦争の最後の72時間に、それらが毎週大勢のレバノンの民間人をいまも殺している子爆弾を残したクラスター爆弾と共に南レバノンに浴びせられたことを知っています。そして、我々はいま、最初に断固としてこのような弾薬を使用したことを否定したあとで、イスラエル軍が、イスラエルとアメリカが署名しなかったジュネーブ議定書において、使用の制限が前提とされた白リン弾を使用したことを認めたことを知っています。
(訳注 白リン弾は弾薬そのものは使用が禁止されていませんが、居住地に対して用いるとか、焼夷を目的として用いるなど、使用方法によって違法となるというのが一般的な法解釈です)
しかし、キアムとアト・ティリの少なくとも二つの爆弾のクレーターから集められた科学的な証拠、去る7月と8月のヒズボラ・ゲリラとイスラエル兵のすさまじい戦いの光景は、ウラン・ベースの弾薬がまたもイスラエルの武器の在庫に含まれていたかも知れず、レバノンの標的に対して使われたことを示唆します。欧州放射線リスク委員会の英科学主事クリス・バズビー博士によれば、イスラエルの重爆弾もしくは誘導爆弾が巻き上げたふたつの土壌のサンプルが「顕著な放射線の痕跡」を示しました。いずれのサンプルも、さらなる試験を行いオックスフォードシャー州のハウェル研究所で質量分析をするために転送され、国防省によって使用され、サンプルからウラン・アイソトープの集積を確認しました。
バズビー博士の最初の報告は汚染について2つの潜在的な理由があると述べています。「第一は、この兵器が小型の斬新で実験的な核分裂装置か、その他の実験的な兵器(例 サーモバリック兵器)で、ウランが酸化する瞬間の高熱を用いるということです。第二は、この兵器が劣化ウランではなく濃縮ウランを使った貫徹型の地下基地攻撃用の通常兵器だということです」。最初の爆弾が爆発する写真にはウランが燃えた結果かも知れない黒煙の雲が写っています。
濃縮ウランは天然のウラン鉱石から作り出され、そして原子炉の燃料として使われます。濃縮プロセスの廃棄物が劣化ウランで、対戦車ミサイルが装甲を貫通するために使われる極度に硬い金属です。劣化ウランは濃縮ウランよりも放射線が弱い天然のウランよりも放射線は微弱です。
(訳注 飛翔速度が遅い対戦車ミサイルは普通は化学エネルギー弾を使います。劣化ウランは飛翔速度が速い対戦車徹甲弾に使われるものです。貫徹型の巡航ミサイルには劣化ウランが使用されますが、対戦車ミサイルでは使われないはずです)
イスラエルはレバノンでの武器使用について真実を告げることでは信用がありません。1982年、イスラエルは、ジャーナリストが空中に放出された火炎で負傷し、死にかけたり死亡した民間人を発見するまで民間人居住地帯での白リン弾の使用を否定しました。
私は、イスラエルが包囲中の西ベイルートで、死体置き場の引き出しから取り出した途端に発火した二体の赤ん坊の死体を見ました。イスラエルは公式にその夏にレバノンで白リン弾を使ったことを再び否定し、標的の位置を知らせる場合を除いては、レバノンの病院で白リン弾による火傷を負った民間人の写真が撮影されたあとですら否定しました。
(訳注 赤ん坊の事例が示すのはこういうことだと考えられます。白リン弾は爆発すると炎を拡散し、燃える白リンが身体に付着すると酸素を断たない限り火は消えません。この赤ん坊の死体は密閉された冷凍庫に入れられて火が消え、外に出したためにまだ燃えだしたのかも知れません)
土曜日になって、イスラエルは突然まだ真実を告げていなかったことを認めました。政府と議会の関係に責任を負うイスラエルのジェイコブ・エドリー首相は、白リン弾はヒズボラに対して直接使用され、「国際法に従い、白リン弾の使用は認められており、(イスラエル)軍は国際基準のルールを守る」と述べました。
インデペンデント紙がこの夏、イスラエル軍はレバノンでウラン・べースの爆弾を使ったかと尋ねた時、イスラエル外務省のマーク・レゲヴ広報官は「イスラエルは国際法や国際協定に公認されないいかなる兵器も使用しない」と述べました。これは質問に答えることよりも多くの疑問を呼び起こします。多くの国際法はジュネーブ条約のような人道上の規則が作成された時、それらは発明されていなかったため、近代的なウラン兵器を含めておらず、西側の政府はいまでも、それらの使用が爆発地域に住んでいる大勢の民間人の健康に長期間の被害を引き起こすことを認めるのを避けています。
米英軍は大量の劣化ウラン弾(DU)をイラクで1991年に使いました。それら硬化した貫徹式の弾頭は原子力産業の廃棄物から作られます。そして、5年後、南部イラクにわたって癌の流行が出現しました。最初、米軍のアセスメントは、こうした武器が装甲車両に対して使われたら、公衆衛生に深刻な影響があると警告しました。しかし、米政権と英政府は後にそうした批判を過小評価しようとしました。それでも、DU弾がNATO軍の航空機によって使われたボスニアの民間人の報告の中に拡がり続けた癌は、新しい癌の形態を被っています。DU弾は、米英による2003年のイラク侵攻で再び使われましたが、健康への影響が表れるにはまだ早すぎます。
「ウランの貫通装置が硬い標的に命中した時、爆発物の微片は環境に長期間残留します」とバズビー博士は昨日言いました。「それらは広範囲に拡散します。それらは肺に吸い込まれるかも知れません。軍は本当にこの特質を額面通りに危険とは信じていないようです」 なぜ、イスラエルはこの兵器を標的が、キアムの場合では、イスラエル国境から2マイル足らずにある場合でも使ったのでしょうか? ちょうど、塩素ガスが第一次大戦で両者によって使われ、しばしば加害者自身の上に吹き戻されたように、DU弾の粉塵は国際的な国境を越えて吹き飛ばされます。バズビーの報告書を評価したクランフィールド大学の軍事科学政策学のクリス・ベラニー教授は「最悪の場合、それは我々がまだその目的を知らない濃縮ウランの部品を持つ何らかの種類の実験的な兵器です。最良の場合、言ってみれば、核廃棄物の用法における極めて無頓着な態度を表します」と述べました。
1978年から2000年までイスラエルが南レバノンを占領した時に、拷問で悪名の高い刑務所の跡があり、この夏の戦争でヒズボラの前線拠点であったキアムから採取された土壌サンプルの同位元素比率は、濃縮ウランの存在を示す108でした。「大型のウラン貫徹型爆弾が使われ、吸引が可能な酸化ウランの粒子が大気中に莫大に拡がったあとの地域住民の健康への影響」は「恐らくは重要であると考えられ、我々はこの地域は除染する視点によってさらに兵器の調査を行うべきだと勧告します」とバズビーの報告書は述べています。
この夏のレバノン戦争は、ヒズボラのゲリラがレバノンの国境を越えてイスラエルに入り、2名のイスラエル兵を誘拐し、他の3名を殺害してはじまり、イスラエルがレバノンの村、町、橋や民生用のインフラに対して大規模な砲爆撃を放つことを促しました。人権擁護団体は、イスラエルが民間人を攻撃する戦争犯罪を犯したと主張しますが、ヒズボラもまたボール・ベアリングで満たして、自分たちのロケットを原始的な使い捨てのクラスター爆弾に改造したミサイルをイスラエルに撃ち込んで同じ犯罪を犯しています。
ほとんどのレバノン人は、それでも、先のレバノン戦争は、イスラエルとヒズボラに個別に弾薬を供給するアメリカ人とイラン人にとって兵器の実験場だったと結論しています。イスラエルが正体不明のアメリカのミサイルを攻撃に用いたのと同様、イラン人はレバノン沿岸沖のイスラエルのコルベット艦に命中して、4人のイスラエル水兵を殺し、15時間の艦内火災ののちに艦をほぼ沈没させたロケットの試験発射を行えました。
武器開発業者が、南レバノンで使われた可能性があるウラン兵器の最新の科学技術に何を用いたのかはまだ判明していません。民間人への影響もまた分かっていません。(記事終わり)
この記事が示すように、白リン弾の前例があるため、イスラエルの抗弁は信用することができません。しかし、正確な結論は科学的分析の結果を待つ必要があります。
それにしても、この兵器はどんなものなのか実に気になるところです。最も考えやすいのはイスラエルに輸出されたバンカー・バスターに濃縮ウランが使われていたことです。しかし、濃縮ウランの用途は見当がつきません。爆弾の重量を増して貫徹力を増やすのなら劣化ウランでもできるはずです。色々と考えることはできますが、結論は出せそうにありません。
いずれにせよ、ウランが空気中に飛散した場合、広範囲に散らばるといわれています。ウランは重たいため、すぐに地面に落ちてそれ以上移動しないと米軍は主張しましたが、実は対戦車用の劣化ウラン弾が開発された時の実験データでは、かなり広範に飛散することが明らかになっていました。バンカー・バスターとして用いた場合も同様の効果が考えられるため、この問題は軽視すべきではないと考えます。