military.comに面白い記事が掲載されました。1999年に行われた図上演習の詳細が情報公開法によって判明したのです。
「砂漠の十字路(Desert Crossing)」なる図上演習は70名の軍、外交官、情報機関のメンバーによって行われました。その結果が先週土曜日にジョージ・ワシントン大学国家機密公文書保管所によって公開されました。
その図上演習は、サダム・フセインを権力から追放した後の「最も悪いケース」と「最もありそうなケース」を検討し、400,000人の軍隊を投入しても侵攻が失敗に終わる可能性があるという結論を出しました。想定の内のいくつかは、2003年以降、実際に起きたことに似ていたといいます。記事にはブリーフィングで出た問題点が引用されていますが、これまでこのサイトで指摘してきたこととほとんど同じです。興味のある方は読んでみるとよいでしょう。
イラク侵攻が政策として決まった時、米陸軍はホワイトハウスに500,000人を超える大軍を送り込む方法を勧告しました。しかし、実際にはその半分以下の兵力しか認められませんでした。この勧告を行ったエリック・シンセキ陸軍大将の判断はやはり正しかったのだと思います。
1999年にアメリカがこうした図上演習を行っていたとしても、それはこの時、アメリカに侵攻の意図があったとは言えません。図上演習はさまざまな想定を立てて行われるものです。その結果をまとめ、参考にすることで不測の事態が起きた時に、迅速に対応できるようにするのです。1999年はアメリカが湾岸戦争後のフセイン政権を監視していた時期で、介入する必要が出た場合を想定したのは当然のことです。この辺の常識を日本のマスコミは理解しておらず、すぐに戦争と結びつけたがる欠点を持っています。
日本でもマイナーながら、こうした図上演習の民間版を扱うメディアが存在します。「ゲーム・ジャーナル」という専門誌は、毎号ゲームが附属しており、関連する記事も載っています。私はこの本を買ったことはないのですが、かつて同種のウォーゲームをやったことがあります。軍の戦術や作戦の基本的な部分を知りたければ、こうしたウォーゲームを使い、あれこれと部隊を動かし、戦術や作戦によって結果が大きく左右される理由を知るのが手っ取り早いでしょう。この種のゲームは想定外の結果は出ないので、現実の戦争に比べると単純な感じがしますが、現実にはできないことを試せるのが利点です。もし、同じことを本から学ぼうとすると、大変な時間と費用、そして努力が必要です。
実は、かなり前の話になりますが、私は北海道にソ連軍が上陸することを想定したウォーゲームを作ろうとしたことがあります。しかし、調べる内に次第にその可能性が小さいことが分かってきて製作する意義を見失い、中止したことがありました。その内、そういうゲームが市販され、ある陸自中堅幹部の方とそのゲームについて討議したことがあります。その方が言うには、自走砲部隊の防御力は、自走砲の種類による違いを反映しているところは評価できたそうです。しかし、河川地帯の移動力は陸自が持っている情報とは異なっており、不正確だと言うことでした。陸自は河川の深さを季節ごとに調査しており、どこを渡河できるかを把握していますが、そうした面が部分的に不正確だと言うのです。もちろん、具体的にどこが不正確かは教えてくれませんでしたし、私も尋ねませんでした。このゲームについては、他の陸自幹部の方とも話をしたことがありますが、その方は専門用語に誤りがあったので製作会社に連絡をし、訂正してもらったと言っていました。やはり、仕事柄のためか、かなりの興味を持っているようでした。
この種のゲームに過度に入れ込むのは感心しませんが、軍事作戦をパノラマのように眺める能力を養うのには有益です。ある程度、ウォーゲームの経験を積めば、地図と報道記事だけで軍事情勢を判断できるようになります。