海自の潜水艦「あさしお」が接触事故

2006.11.21



 今日、海上自衛隊の潜水艦「あさしお」(2,900t)が、パナマ船籍の「スプリングオースター」と接触する事故が起こりました。(写真、地図は朝日新聞の記事を参照)

 海上幕僚監部の発表では、あさしおは頭上の海面で別の船が航海している音が遠ざかったため潜航から浮上しようとしたところ、再び音を探知したため潜航しようとしたものの、後部で衝撃音が起こったということです。

 この発表は、事故処理を考えてうまく繕ってあると思います。もちろん、現時点では、海自にも明確な事故原因は分かっていません。しかし、あさしお側に責任があるのは明白です。それでも、何が原因でスプリングオースターを見落としたのかが分かるまでは、その部分を目立たないように発表したように見えます。この事故では、最初に遠ざかっていった別の船は関係がないので、説明する必要はないと言えます。問題はすべての船を探知できなかったことであり、事故の全貌を説明するにはその部分に焦点を当てるべきです。しかし、海自はまだそこに焦点を当てたくないのでしょう。

 潜水艦の浮上手順を思い出してみましょう。潜水艦が浮上する時は、必ず全方位を調べて付近に船舶がいないかを確認します。そのために、海中の音声を聞いて、スクリュー音がないかを調べる「ソナー探知」が使われます。ところが、自艦の後方、スクリュー付近にはスクリュー自体が立てる騒音により探知ができない、バッフルとよばれる場所があります。そこで、「バッフル・チェック」といい、針路を右へ10度切ってバッフルのソナー探知を行い、すぐに元の針路に戻すという動作を行います。あるいは、曳航ソナー・アレイ(TASS)といい、スクリューの後方まで伸ばし、バッフルの探知ができるソナーを使う方法もあります。ただし、深度が浅い場所では曳航ソナーを海底にぶつける恐れがあるので使えません。宮崎県日南市油津港の東約50kmの深度は200m程度ですから、曳航ソナーは使える深度だろうと思います(だろうと言うのは、曳航ソナーの使用限界深度がはっきり分からないからです)。いずれかの方法でバッフルの安全を確認してから浮上するのが、潜水艦の基本的な浮上の手順です。

 一番考えやすい事故の原因は、あさしおはバッフル・チェックを行ったのに、スプリングオースターがバッフル内か付近にいたために探知できず、気がつかないまま浮上をはじめたということです。この場合、スプリングオースターがあさしおの後方にいて、スプリングオースターがあさしおに追いつくような形で接触したことになります。あさしおの縦舵は上端部分が右舷側に曲がり、縦舵の全体も右舷側に傾いています。だから、スプリングオースターはあさしおの左前方を右に向けて横切った可能性もあります。しかし、真後ろから接近した場合でも、舵が左舷側に傾いても変ではないといえます。スプリングオースターの船員が衝突音を二回聞いているのも気になります。明日にでも、あさしおの舵以外の部分に接触痕が見つかるかも知れません。

 ただ、ソナーは不安定な探知装置でもあります。海のさまざまな状況により、近い場所でも探知が難しくなる場合もあると聞きます。しかし、これほど近くにいたスプリングオースターを接触間近まで気がつけなかったのは、非常な驚きです。

 とはいえ、事故海域は、鹿児島・大阪間のフェリー定期便が通る海域でもあります。浮上の際には慎重にも慎重を期するべきです。

追記:
 上の記事を書いてから、北海道新聞の記事に、事故当時、あさしおは南へ、スプリングオースターは南西へ向かっていたと書いてあることを知りました。やはり、スプリングオースターはあさしおの左から接近してきたのです。バッフルが関係なしとなると、あさしお側の過失である可能性がさらに高まります。

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