イラク政策・アメリカの主導権は完全に消滅

2006.11.23



 ワシントン・ポストが掲載した国連の発表によると、10月のイラク民間人の死者数は3,709人でした。9月と10月を合わせると7,054人で、その内の5,000人近くがバグダッド市内で殺されています。人権擁護団体のデータでは、7月と8月を合わせた死者数は6,599人で、暴力が一層増加していることが分かります。

 military.comによれば、アフガニスタンでも増派が必要な情勢となっていますが、アメリカが実際に派遣するかは不明です。カール・アイケンベリー中将は、来襲ラトビアで開かれるNATOサミットが終わってから発表すると述べています。NATOは取り決めた分の85%の軍を派遣しており、アメリカはさらに増派するよう求めています。アフガニスタンには約30,000人のNATOが指揮する部隊がおり、その内、12,000人は米軍です。さらに、米軍の指揮下にある11,000人の米兵が任務に就いています。アメリカはNATOがどれだけ兵を送るかを見てからにするのでしょう。

 同紙によると、イラクの医師たちが誘拐や殺人を避けるため、国外へ脱出するようになっています。さらに、医薬品と機材の不足により、医療体制が崩壊しています。産科医のラージャ・アル・クザイ博士は「バグダッドでよい産科医を探しても、一人も見つけられない」と述べています。最近放送されたドキュメンタリー番組でも、イラクの病院には基本的な医薬品すら支給されておらず、機材は壊れ、医師たちが困っている姿が紹介されていました。その番組では、イラクは中東の医療先進国だったのに、アメリカが状況を悪化させたと説明されました。さらに、米兵に家宅捜索を受け、あとでこの捜索について米軍から謝罪を受けたのに出国した医師も紹介していました。こうした事例はmilitary.comでは触れていません。クザイ博士は「新しい病院や健康管理センターが建設されると聞いたのに、一つも実現していない。いくつかの病院が機能しているだけ」と主張します。イラク暫定統治機構(CPA)がイラクに投じた莫大な予算は請負業者たちによってかすめ取られ、手抜き工事で建てられた病院だけが残ったのです。こうした特需では不正が起こることが当然予測されるのに、アメリカは何の手も打っていませんでした。CPAはとっくに解散したのに、今ごろになって捜査をはじめたのです。

 アメリカがイラク政策で停滞を続ける中、中東ではパレスチナ問題も変化し、暗殺事件も起きています。アメリカは何年かかかってイラクから軍を引き揚げることはできるかも知れません。しかし、中東外交の後退を回復するには十年はかかりそうです。あるいは、イラン問題やパレスチナ問題が大戦争を引き起こしてしまうのかも知れません。とにかく、アメリカには賢明な大統領が必要です。あと2年待たずに、大統領を交代させる方法を考えた方が話は早いかも知れませんね。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.