米海軍が自殺予防月間を実施

2006.11.25



 意外に思えるかも知れませんが、米海軍の隊員の死因のトップ3には「自殺」があります。米海軍は、自殺防止月間を設け、自殺の兆候を見つけ、対処する方法を隊員に教育し、自殺者を減らす努力を行っており、military.comがそれを報じています。

 軍人に自殺者が多いことはよく知られています。古典的な社会学の研究でも、自殺は「老人よりは若者に多く。女性よりは男性に多く。職業では警察官に多い」とされています。この警察官は軍人と捉えることもできます。つまり、若い男性の軍人は自殺する確率が高いということになります。心理学の研究でも、警察官になりたがる心理には、罰せられたいという自罰的な気持ちが隠れているとされています。キリスト教保守主義の若者が軍に志願するのも、キリストが人々の罪を背負って磔にかけられたことに続こうとする、殉教的な心理が隠れていると考えられます。彼らが言う「つとめを果たす」という言葉には、そういう意味が含まれています。かなり前の話ですが、私が怪我で入院した時、6人がいる大部屋の3人が自衛官だったことがありました。ある日、見舞いに来た彼らの同僚が、幹部隊員が行方不明になり、捜索したところ自殺していたと分かったと話しているのを聞きました。軍人だけでなく、熱心な軍のサポーターにもそうした心理を感じます。

 こうした背景は、軍事を考える上で無関係ではありません。死にたがる人たちが本当に合理的な戦略を立てられるのかという疑問を考えさせられるからです。彼らは敵と戦うことだけを考え、その中で自分も死んでいくことを無意識に望んでいます。敵との争いを減らすという発想においては、彼らには欠けている部分があると考えざるを得ないのです。特に、キリスト教徒ユダヤ教の信者は、他宗教と比べても強烈な罪悪感を持っているといわれています。そうした人たちはどこかで贖罪をしたがっているわけで、それが新しい問題を引き起こす危険があります。ブッシュ大統領がイラク侵攻を決断した背景には、自分の過去の放蕩を払拭したいという心理が潜んでいた可能性があります。客観的に戦略を考える者なら、イラク侵攻の結果を予測し、成功するものかを慎重に判断したでしょう。しかし、信仰に厚い者は、案外とそうした思考プロセスを無視するものなのです。有名なワーテルローの会戦で、ネイ将軍はナポレオンを一度は退位させたことの不名誉を挽回しようとして独断で近衛部隊を突撃させ、ナポレオンを敗北に導いてしまうという失敗を犯しました。いくら道徳的に正しいように見えても、軍事的な分析を欠いた軍事行動は厳しく戒められなければならないものなのです。米海軍の自殺予防月間の記事は、単なるイベントの報道ではありますが、その背景にはこうした問題が横たわっています。

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