military.comに、こんなナゾナゾが載りました。
メイフラワー号事件(1620年)よりも何歳か若く、独立宣言(1776年)や合衆国憲法(1787年)よりかなり年長で、米陸軍、海軍、海兵隊を139年遡り、空軍よりも311歳年上なのはなんだ?
答えは州軍です。昨日、アメリカの州軍は370年の誕生日を迎えました。
州軍が発足したのは1636年。当時、連邦政府の力が弱く、各地で市民軍が発足したのが起源で、やがてこれが州軍という形で定着しました。映画「ランボー」ではアルバイトのヘナチョコ兵隊として描かれましたが、実際には州軍はアメリカの軍事力の一翼を優に担っています。アメリカが参加した多くの戦争に、州軍の姿は常にありました。現在、450,000人の州軍兵士が存在します。州軍には陸軍と空軍がありますが、海軍はなく、沿岸警備隊がその役目を務めています。この記事は州軍の歴史を伝えていますが、日本人には州軍はよく分からない存在です。私が知る限りでも、かなり特異な制度です。
州軍の兵士は月に2回の週末と2週間の夏季訓練を行います。パートタイム雇用の軍隊ですが、基幹要員はフルタイム雇用です。日本では考えにくいことですが、パートタイム制度は海外には結構あります。パートタイムでも、契約期間をちゃんと務めれば軍人に与えられる恩典(奨学金、恩給、住宅ローン保証など)を受けられます。州軍も、この点をアピールして志願者を募っています。仕事をしながら軍務も務め、給料がもらえるところが魅力です。
しかし、州軍は有事には海外に派遣されます。下手すると、連邦軍よりも危険な任務に就かされます。連邦軍は国家戦略に基づいて任務が決まっているので、容易に動かせない部分がありますが、州軍は完全な予備兵力として使いやすいのです。日本ではあまり知られていませんが、過去の戦争で州軍は常に米軍の一定の部分を占めています。州軍の歩兵部隊にいるよりも、連邦軍の後方支援部隊にいる方が安全な場合もあるでしょう。中には、このことを知らないで入隊する人もいるそうです。州軍は「学費を稼いで、地域に貢献しよう」と宣伝するからです。
面白いことに、州軍の費用は州の予算から出るのではなく、連邦予算から出ます。訓練に関しても連邦軍が権限をもっています。金の出所が連邦だから、連邦の組織ではないところが州軍の面白いところです。これを象徴する事件があります。ある時、全米で話題になる事件が起こり、この件について質問された大統領、多分リップサービスだったのでしょうが、「解決への支援を惜しまない」と発言しました。側近たちは大統領がこう言ったのだから、何か行動を起こす必要があると考えました。そこで、確か捜索のためだったと記憶しますが、とりあえず海兵隊をヘリコプターに乗せて派遣することにしました。連邦軍を州に入れる場合、州知事への通告が必要という規則があるのですが、この時は誰もがそれを忘れていました。事態を知った地元の州知事は怒り、「連邦軍が我が州を侵略しようとして、海兵隊を派遣した」と発表しました(そうするとホワイトハウスに連絡した、かも知れません)。側近たちは、ここで自分たちのヘマに気がついて、海兵隊を引き返させたのです。
もっとも、歩兵部隊に限って言えば、訓練時間を十分に取ったどころで、兵士の生還率が下がるというものではありません。この数字を決めるのは、戦場の状況がほとんどで、歩兵に選択肢がないことはよく知られています。攻撃力、防御力、移動力のいずれも小さい歩兵は戦場で常に大きな犠牲を出すものです。それでも、歩兵がいないと戦争はできません。サイズが小さいから隠れるのが容易で、地形に応じてフレキシブルに展開でき、攻撃に対して粘り強いのは歩兵だけです。戦車など、兵器のサイズが大きな部隊の戦闘は、目標が視認できるだけに、短時間で終わってしまいます。歩兵部隊を砲兵隊と航空部隊で支援し、打撃力を装甲部隊で補うと、歩兵部隊は強力な戦力となるのです。しかし、個々の歩兵が置かれた立場を見ると、気の毒なくらい危険極まりないものです。
イラクの戦略転換が遅れているため、イラク関係の情報に興味をひくものが減っています。まもなく、クリスマス休暇になると、政府関係者も一斉に休暇を取るので、政治が進展しなくなります。どうせ、クリスマス前には進展はありませんから、元旦を過ぎるまで何の発表もないでしょう。その間に、普段書けないことを書こうかと思います。