公開されたサウジのイラク報告書

2006.12.19



 アメリカではゲーツ氏が国防長官に就任し、中国では北朝鮮が予想通りの強硬姿勢を見せました(経済制裁の解除はともかく、軽水炉の提供まで要求するとは予想外でした)。しかし、イランがイラク国内にシーア派の国家を建設しつつあるというサウジアラビア政府の報告書が気になります。これについて、ワシントン・タイムスアルジャジーラなどのメディアが報じています。

 この報告書は40ページの分量で、今年3月に提出され、これまで一般には公開されませんでした。報告書は、スンニ派武装勢力の数を約77,000人(サダム・フェダイーンの残党60,000人、外国人聖戦士17,000人)、シーア派武装勢力を約35,000人(市民軍25,000人、サドル軍10,000人)と見積もります。シーア派市民軍には3百万人、サドル軍には150万人の支持者がいます。イランは情報活動専門の特殊部隊「アルクドス」をイラクに潜入させており、資金や武器を提供しています。

 サウジアラビア政府の方針は、この報告書で決したのではないかと考えられます。これだけの兵力が対立している以上、イラクが激しい内戦に陥る可能性を予測し、シーア派が勝った場合にサウジに押し寄せるイランの圧力を想像するのは難しくありません。イラクの内戦に参加しようとするサウジ人を取り締まり、イランのイラクへの関与を防ぐことです。そのために、サウジはアメリカと共同作戦をとる方が賢明だと考えるはずです。最近、イランのアフマディネジャド大統領に対して、学生からの反発が強まっています。この動きが、アメリカやサウジの工作によるものかも知れません。あるいは、独自の学生運動だったのかも知れませんが、アメリカとサウジは彼らに援助したくなるでしょう。そして、イラン政府は学生運動を弾圧したくなるでしょう。やがて、イラク政府の厳しい弾圧が明らかになり、国際社会のイランへの風当たりが強まる可能性があります。その結果、アメリカの国内世論は、「イランを攻撃するのはやむを得ない」という意見が大半を占めるようになり、米政府の動きを後押しするかも知れません。あるいは、それを期待して米政府が工作を展開しようとするかも知れません。

 こうした動きはより大きな戦争への布石のようなもので、作為と偶然の積み重なりなのです。太平洋戦争も、日本が中国を弾圧していることがアメリカで大きく報じられ、日本批判が急速に高まった果てに起きています。その背後には別の要素もありますが、戦争の表舞台ではこうした動きが必ず起きるものです。だから今後、イランで起きることには特に注意を払う必要があります。

 今日の報道に接して、どうも戦争のルーチンに入っているような気がしました。これが杞憂であること願うばかりです。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.