military.comによれば、ゲーツ国防長官がブッシュ大統領にイラク新戦略の報告を行いました。どのような報告だったのかは不明ですが、多分、増派の方法について論じたのでしょう。ライス国務長官、スティーブン・ハドレー国家安全保障担当補佐官と彼の副官J・D・クローチが同席していたといいますから、イランやシリアに協力を求める案は出なかったのではないかと考えます。
アメリカがもたついている間に、ソマリアにエチオピアの介入が加速しています。ソマリアは、米軍が初めてIEDによる攻撃を受けた場所で、その結果、デルタ・フォースとレンジャー部隊を派遣し、一敗地に塗れた場所でもあります。その結果、アメリカはソマリアから撤退し、以後、ここは無法地帯となり、秩序を回復するために武装闘争が繰り返されました。エチオピアはこういう状況を放置できない立場にあります。エチオピア国内にもソマリ族がおり、独立運動を展開してきました。1977年にはエチオピア国内にいるソマリ人が反乱を起こし、これをきっかけにエチオピアとソマリアは戦争状態になりました。その後のソマリア国内の混乱の原因はこの戦争です。エチオピアは国土保全のためにソマリア勢力が強力になるのを看過できないのです。
ワシントン・ポストによると戦況はかなり進んでいるようです。国連は、以前から8,000人のエチオピア兵がソマリアに入っているとみていました。エチオピアは彼らは訓練を担当する軍事顧問に過ぎないと説明していました。しかし、エチオピアの介入は訓練の限度を超えています。現在、4カ所の戦線が存在し、エチオピアがジェット機を使った空爆を行っています。南部の町バイドア(Baidoa)で激しい戦闘があり、エチオピア兵がベレトゥエイン(Beletwayne、下の地図ではBeledweyne)付近で目撃されて、首都モガディシュに迫っている様子が窺えます。より北にあるガルキャオ(Galkayo、下の地図ではGalciao)でも、補給路に沿って戦いが起きています。戦闘が南半分に集中しているのは、北部が降雨の少ない砂漠地帯であるためでしょう。ソマリアを手中にするには、南部を制することを考えた方が話が早いのです。また、バイドアには暫定政権がおり、エチオピアは暫定政権を守り、モガディシュを拠点とする反政府勢力「イスラム法廷会議」を倒そうとしている模様です。
イスラム法廷会議はアルカイダと関係があるといわれており、テロの拡大という点で注目すべきです。アメリカは現状から言って、ソマリアへの介入はできません。ヨーロッパが介入するか、国連として介入するか、いずれかの形でこの混乱を収めなければなりません。貧窮しているこの地域の問題を解決することは、世界平和の観点からも重要です。これからはそうした観点で軍事問題を語ることが必要です。現在、その資質を最も持っているのはヨーロッパ連合で、アメリカは時代遅れの覇権主義にしがみついており、その行動はロシアと似たものになってしまっています。アジアでは、シンガポール辺りがその資質を最も持っていそうで、最近アジアに仲間入りしたオーストラリアも有望です。願わくは我が国もと思うのですが、国民にその気概が感じられないのが気になります。いま、こんな話をしても、多くの人は「正しいことだとは思うけど、アメリカとの関係が一番大事」と答えるでしょう。