フセイン処刑に関係なくテロは悪化の見込み

2006.12.31



 サダム・フセインの死刑が昨日執行されました。私が彼が死んだと思ったのは、2003年にブッシュ政権がイラクを攻めると決めたことを知った時でした。その時点では、フセインが国外に逃亡する可能性もあると思いましたが、どちらにしてもイラク侵攻が失敗することはあり得ないので、フセインは政権を維持できなくなるのは確実でした。死んだと言っても構わないと思いました。だから、昨日の処刑はそれが現実化したのだと受け止めました。フセインの処刑がなくてもテロは激化するし、処刑が行われてもテロは激化するのと予想できます。そういう意味では特別に意味のない出来事です。

 military.comによれば、12月の米軍の犠牲者も多く、10月の105人を超えているとのことです。少なくともイラク侵攻以来2,997人の米兵が戦死しています。イラク市民は12月に少なくとも2,139人が殺されました。10月は1,216人ですからかなりの増加を見せています。

 この状況でも、アメリカは正式にイラクが内戦状態だとは認めていません。亡くなったジェラルド・フォード元大統領はイラク戦争に反対だったということが明らかになりました。2004年7月、フォード元大統領はボブ・ウッドワードとのインタビューの中で、死後公開することを条件にイラク侵攻についての私見を明らかにしていました。公の場では一度も述べたことがないけども、自分ならイラクには侵攻せず、経済制裁などで最大限の努力をしただろう、とフォード氏は言いました。

 なぜ、死後公開を条件としたのかについて、アメリカ人にとって自国の戦争に反対するのがむずかしいことを読み取るべきです。戦争政策に反対することは、戦場に赴く兵士たちを支援しないことと同じにみなされ、アメリカのように地域社会に兵士とその家族が大勢いる中では非常にむずかしいことなのです。目の前に戦争が迫っているのだから、いまは出征していく兵士を心から応援したいと思うのは人情ですが、冷酷な戦争の論理の前には感情論に過ぎません。しかし、誰もがこの感情に渦に流されてしまいます。元大統領ですら、そういう中で反対意見を述べるのは、現政権を後ろから刺す危険性が高いと考えます。左派も何らかの形で支援を示さないと非国民とみなされるのを恐れ、声を潜めます。俳優のロバート・レッドフォードが「まだこの戦争をする正当な理由を聞かされていない」と発言したのが精一杯で、誰もが言葉を選んで婉曲的にしか意見を述べなくなります。こうして戦争に反対する人は誰もいなくなるという仕掛けです。

 アメリカはこういう輪廻のようなものから脱却する必要があります。普段、自分たちが善だと思ってやっていることが戦争を後押ししているのだということについて、もっと考える必要があります。

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