バズーカ砲で防弾ガラスを撃ったら?
軍事問題ではありませんが、ちょっとテレビの話題を取り上げます。「トリビアの泉」で、バズーカ砲で防弾ガラスを撃ったらどうなるのかという実験をやるというので見てみました。発案者は、銃弾で防弾ガラスを撃つ実験から思いついたということでした。しかし、この実験はバズーカ砲の仕組みをよく知らない人が考えたようです。
バズーカ砲の弾頭の種類は成型炸薬弾だから、目標に命中すると爆発します。その時にライナーという金属製の部品が爆発によって液体金属になり、装甲を貫通して車両を破壊する仕掛けです。実験で使ったのはRPG-7でした(厳密にはRPG-7はバズーカ砲とは言わないと思いますが、それは問題視しないことにします)。RPG-7には弾頭が数種類あり、どれを使うかで結果は大きく違います。成型炸薬弾の他に、8m以内にいる人員に効果がある対人用の榴弾があり、ほかにも様々なバリエーションがあると言われています。PG-7VL弾頭なら60cmの装甲板を撃ち抜きます。PG-7VRなら成型炸薬弾を防ぐリアクティブアーマーを貫通してから、さらに75cmの装甲板を貫通します。番組では、どの弾頭を使うのかを説明しませんでした。映像をよく見ていれば弾頭の種類が分かったかも知れませんが、そこに気が回りませんでした。武器に詳しいという金沢憲一教授も出演していましたが、彼もこのことを説明しませんでした。
RPG-7は銃弾と違い、ロケット噴射を続けながら飛行します。だから、防弾ガラスが一端は弾頭を食い止めても、噴射が続いていれば突き破る可能性があります。この時、衝撃で弾頭が爆発するかも知れません。すべては一瞬の間に起こるので、爆発した時点で防弾ガラスを突き破っていれば爆発は貫通とは関係がなく、ロケット噴射による加速と弾頭の重量が生み出す運動エネルギーが貫通の理由だということになります。爆発した時点で弾頭が防弾ガラスを突き破っていなければ、ライナーが防弾ガラスを突き破るかも知れません。あるいは、衝突の衝撃で信管が作動せず、爆発が起こらない場合も考えられます。これが貫通前に起きた場合は、どう評価するのでしょうか。ロケット噴射による貫通力は防弾ガラスに負けたとは言えますが、もともと、バズーカ砲は弾頭の貫通力で目標を破壊するようには作られていません。正当な性能の評価はできなかったということになります。直感では弾頭の爆発は起きると考えられるのですが、やってみないことには何とも言えません。
5cm厚の防弾ガラスをRPG-7で100mの距離から撃つ実験が行われました。弾頭は防弾ガラスを貫通し、その後に爆発が起こりました。ロケット噴射だけで防弾ガラスを貫通できることが確認されました。次に、10cm厚の防弾ガラスを用いて実験したところ、弾頭は防弾ガラスを突き抜けませんでしたが、弾頭は爆発しました。この時に使われた弾頭が何かが分からないのですが、見たところでは、弾痕に焼けたような後がほとんどなく、猛烈な火炎とライナーが防弾ガラスにあたったような形跡は見られませんでした。もっとも、防弾ガラスにRPG-7を撃つのを見たのは初めてで、成型炸薬弾で撃った場合に、そうした痕跡が現れるかどうかは知りようがありません。
結局、どの弾頭を用いたのかが分からないので、この実験映像だけからは何とも言えません。スタジオにいる方々は納得されていたようですが、私には釈然としないものが残りました。もう一度、実験方法を再検討してやってみて欲しいものです。