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便衣兵は国際法違反とは限らない

2007.3.17



 J-RCOMに気になる投稿(「本日のWhat New!のコメントは矛盾していませんか?」 3月15日付)があったので、それについて少し書きます。

 神浦さんの意見に反論するのは投稿者の自由で、それについてここで触れる気はありません。神浦さんの意見に対して私は自分の私見を持ちますが、それもここで論じるつもりはありません。

 書きたいのは「便衣兵は国際法違反か?」という問題です。投稿者は便衣隊はすべて国際法違反としていますが、これは実情をやや単純化しすぎています。

 「便衣」は平服のことです。かつては軍服のことを「軍衣」と呼びました。両者は意味において対称的な関係にあります。そして、「便衣隊」という言葉は平服を着て軍事行動を行う者という意味で使われていました。それももっぱら、日中戦争の中国のゲリラを指す言葉として使われてきた経緯があります。言外に侮蔑的で、「問答無用で殺してよい」というニュアンスを暗に含むことも察しがつくでしょう。読者の中にも「ゲリラやスパイは問答無用で死刑になる」という話を信じているかも知れませんが、これは誤りです。もっと正確に言えば、時代遅れの認識です。それに便衣隊という言葉はすでに国際法を論じる上で使われておらず、死語に近いものです。

 ゲリラであっても公然と武器を所持していれば戦闘員の資格を得るというのが現在の国際法の常識です。たとえば、米軍を攻撃するために公然と武装したイラクの武装勢力の多くは戦闘員の資格があり、捕虜になる資格を持っています。スパイ行為は間違いなく国際法違反だろう。そう本に書いてあったと考える人がいるかも知れませんが、残念ながらそれは俗っぽい本を読みすぎた結果です。スパイは誰かを殺傷する行為ではなく、古来から正当な手段として用いられてきたとして、違法行為とはされていません。違法行為の区別には「背信行為」という基準があります。軍使や負傷兵、民間人、国連職員などに見せかけて攻撃するといった行為が背信行為で、これは禁止されています。しかし、「奇計(奇襲と同じ意味)」は背信行為とはみなされません。背信行為と奇計は判別が難しい場合があります。また、テロ攻撃も禁止されています。テロ攻撃も定義が難しい概念ですが、現在は民間人を恐怖に陥れるために攻撃や威嚇を行うこととみなされています。問題があるとすればむしろこれらの部分なのです。イラクの武装勢力の活動のどれが違法になるのかは、慎重に個別判断しなければなりません。

 「ゲシュタポに弾圧されようが狡猾な密告網で狩られようが文句は言えません」というのは完全な誤りです。拷問はいかなる場合でも禁止されており、これはゲリラやスパイに対しても同じです。実行した場合は非合法行為とみなされます。実情としては、拷問が行われているのはアブグレイブ刑務所の事件で明らかですが、これらはすべて違法行為なのです。

 どうも、インターネットを見ていると、ろくに国際法の基本書も読まず、聞きかじった知識で先鋭的な議論を展開する者たちが多くて閉口します。もっと国際法に対する知識や理解力を持って欲しいと思います。戦争を防ぐためには国際法のさらなる発展が不可欠です。ちょっとうまく行かないことがあると、すぐに国連に責任を負わせて済ませる態度にも支持できません。我々はどうやって国連に実効的な活動をさせられるのかを考えるべきで、高いところから国連を見下して批判すべきではないのです。とにかく、正確な知識を集めるところから始めてください。世間には戦争に関する誤った情報が氾濫しています。しかし、誰でも普通の努力を払うことで正しい知識を身につけられるのです。本を買うなり、図書館に行くなり、方法はいくつもあります。それを怠らないでください。私もそのためなら及ばずながら力になりたいと思っています。

 
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