4月25日に北朝鮮が行った軍事パレードに、新型の中距離弾頭ミサイルが参加していたことが朝日新聞から報じられました。アメリカではあまり大きく報じられていないようですが、spacewar.comのような専門サイトでは取り上げられています。こうした情報の見方について少し書きます。
この分析の根拠は偵察衛星の写真だといいます。つまり、ミサイルの外形から設計の系統や性能を推測するわけです。特に、噴射口の数や形状、ミサイルの直径からは、過去に開発したどのミサイルのエンジンを使っているのかが分かります。北朝鮮のように開発資金が潤沢にない国では、すでに入手したエンジンを改良しながら使うものです。テポドン1号と2号の設計は、機能することが分かっているソ連製エンジンの使い回しです。これらのエンジンの性能はすでに分かっているので、前述のデータからどの系統のミサイルであるかが分かるわけです。ミサイルの全長からは燃料と酸化剤のタンクの大きさを推測できます。全長が同じ系統のミサイルよりも長くなっていれば、それだけ燃焼時間が増えることになり、飛行距離も伸びると推定できます。
しかし、完全な張りぼてや、既存のミサイルの先端部分に細工して全長を長く見せるなどの偽装工作によってもミサイルの性能は誤魔化せます。現に、過去にそうした偽装工作をソ連が行ったことがあります。ハイテクの偵察衛星の情報であっても、こうしたアナクロ手法で価値がなくなることがあるのです。ミサイル分野に限らず、こうした偽装工作は軍事の基本的なテクニックです。
私は記事を読んで、北朝鮮がすでにグアムを攻撃できる4,000km級のノドンBを持っているのに、わざわざ5,000km級のミサイルを新たに開発するだろうかと疑問を持ちました。射程4,000kmでグアムは攻撃できるとすれば、その先の1,000kmに北朝鮮にとって有益な標的があるのかという問題が生まれます。意味もなくミサイルを作るような経済的な余裕が北朝鮮にあるとは思えません。そこで、パレードのミサイルは偽物の可能性もあると考えることになったのです。しかし、この疑問は以前にテポドン2号の解析で紹介したチャールズ・ビック氏が解いてくれました。パレードに登場したのは、NK-02(SS-21)、スカッドC、SAM-5、シルクワームAG-1、スカッドBの5種類だけで、記事は誤っているというのです。
すると、この情報がどうして書かれたのかが気になります。記事には韓国政府の情報が根拠だと書いてありますが、その情報を記者に提供したのが韓国政府とは明記していません。韓国の朝鮮日報も連合ニュースも、この件を取り上げていないのです。記事にある「複数の日本政府関係者」というのが気になります。記者は日本の政府関係者から韓国の情報を入手したのかも知れません。また、国民の危機感を煽るために情報操作が行われた可能性を疑います。朝日新聞は以前にも、米軍がIEDを完全に無力化することに成功したかのような記事を報じたことがあり、私は軍事報道に関しては信憑性に疑問を持っています。