ワシントン・ポストがかなり力の入ったレポートを報じました。民間軍事会社が戦闘に巻き込まれることが増えているという内容です。気になる部分をまとめると、次のようになります。
非公開の統計によると、民間警備員が護衛した輸送隊は、7回に1回攻撃を受けており、今年最初の4ヶ月で300回近い敵対行動がありました。おまけに変なことも書いてあります。百以上の民間軍事会社の多数が、イラク政府の停滞と腐敗によりライセンスが与えられていません。米大使を警護するブラックウォーターUSA社は、2005年に1年間有効のライセンスを受けましたが、イラク政府の方針転換のため更新できなかったということです。
民間警備員は米軍施設の警備や少なくとも3人の将官の個人警護までやっているといいます。これは本来は考えられなかったことです。米高官と民間軍事会社の代表者は、活動は防御的な軍事活動に限られていると言います。しかし、その内容はサマワに駐屯した陸上自衛隊の活動以上と想定できます。そして、武装勢力は正規兵と民間警備員を区別しないと、記事は書いています。2004年秋以来、民間警備員とトラック運転手は132人が死亡し、416人が負傷、4人が行方不明、208台の車両が破壊されました。輸送隊に対する攻撃は2005年に5.4%、2006年に9.1%、今年5月までに14.7%増加しました。この増加もまた治安の悪化を示す証拠と言えるでしょう。
また、記事は民間軍事会社の興隆ぶりも書いています。イギリスのアーミー・グループ・インターナショナル社は20名の従業員とわずかな車両でスタートし、いまや1,200人(2個大隊分に匹敵)と240台の装甲車を持っています。同社は30人近い社員を失っています。この会社は活動の規模と危険度に応じて、8,000〜12,000ドルを要求します。今年、米軍が民間軍事会社に費やす予算は15億ドルが予定されています。
この記事には輸送隊の護衛方法とコストも書かれています。保安上の理由で、輸送隊はトラックは最大10台までで編成し、これを最低でも20人の警備員が乗った4台の装甲車(M-21小銃と9mmグロック拳銃を持った西洋人指揮官4人、AK-47を持ったイラク人16人)に守られています。指揮官たちは10年以上の経験を持つ者がほとんどで、135,000ドル(おそらく年俸)の報酬をもらいます。イラク人たちはこの十分の1を受け取ります。アーミー・グループ社は2006年に1,184回の輸送隊を護衛し、450回の攻撃(IED、小火器や迫撃砲の攻撃)を受け、2007年には293回の攻撃を受けました。
2005年5月8日の襲撃の事例は特に熾烈です。イラク警察への補給品を運んでいた20人の民間警備員とトラック運転手が襲撃され、13人が死亡または行方不明になりました。武装勢力が4人の死体に爆弾を仕掛けたので、軍は死体の山に戦車砲を撃ち込んで、爆弾を死体ごと吹っ飛ばしたというのです。随分と荒っぽい話です。
この記事から、イラクは滅茶苦茶な状態だということが分かります。法が機能していない上、民間軍事会社の活動は事態を悪化させているとしか思えません。あてのないイラクの民主化のために物資を運び続けても、それ自体が攻撃目標となり、治安を悪化させています。また、そのためにアメリカの国家予算が無駄に費やされ、真に投下すべき部門で使われていないのです。記事は護衛隊の指揮官がもらう報酬は二つ星の将官(少将)に匹敵すると書いています。これで本当に民間委託が軍の効率化になるのかは疑問です。また、イラク人にとって、イラクの軍や警察に志願するよりは、民間軍事会社に就職した方がよほど儲かるわけで、こちらのリクルートの現場もかなり加熱していることが予想されます。報酬額自体がよい上に、給与の遅配はないでしょうから。同時に、イラク軍で起きているように、武装勢力が潜り込もうとする危険性もあります。直感ですが、民間軍事会社の効用は、将来、かなり否定的に評価されることになる気がします。いま見えていない部分が明らかになった時に、悪い材料が吹き出してくるような予感がします。米議会が早い段階で調査を行うのを期待したいところです。