military.comによれば、バグダッドの掃討作戦開始後、イラク国民の死亡数は減少したものの、米兵の戦死数は増加しました。
匿名のイラク内務省職員によれば、6月中に少なくとも1,227人のイラク国民が死亡しました。この数字には190人のイラク人警察官と31人のイラク軍兵士を含みます。これは5月の1,949人のイラク国民(警察官127人、兵士47人を含む)よりも36%少ないのです。また、6月の数値は今年の月間集計で最低です。イラク増派は2月中旬に始まり、最後の増派部隊は先月到着しました。記事はこれらの数字に疑問があるとしながらも、米軍が武装勢力を圧迫しているためかも知れないと書いています。米軍広報官も、数字が下降しているのには勇気づけられるが、取り締まりに原因を期すのは早すぎると述べています。
私も記事を読んだ瞬間は、ひょっとすると増派の効果が出たのかも知れないと思いました。しかし、よく考えると、先月もこれまでのパターンが繰り返されただけです。つまり、イラク国民の死亡数が減ると米兵の死亡数が増え、イラク国民の死亡数が増えると米兵の死亡数が減るパターンが繰り返されただけだということです。武装勢力が攻撃対象を変えることは、この4年間で数ヶ月おきに変化してきたことです。従って、今回も武装勢力の活動が弱まったとは言えないと考えるべきです。米兵と同時に狙われるイラク人警察官と兵士の死亡数は大して変わっていません。この記事を読んで分かった気がしたのは、イラクの治安が回復するのは、イラク国民と米兵の両方の死亡数が同時に減った時だということです。その時がいつ来るのかは見当がつきません。軍事的手法で決着がつくことではないので、いつ政治的な決断が下されるかで変化が起きるはずです。
また、別の記事によると、米軍報道官が、3月20日にイラク南部でヒズボラの工作員アリ・ムサ・ダクドクが逮捕されたと述べました。ダクドクはヒズボラで24年間活動しており、イラクではイランのクドゥス隊の代理として活動していたといいます。広報官は、イラクの過激派はイラン国内のキャンプで訓練を受けており、ダクドクもその活動を手伝っていたと言います。
イランがイラクのシーア派を支援している証拠が徐々に出始めていますが、アメリカはかくも上手く罠に落ちたものだと思います。孫子は、敵に勝てると錯覚させる工作を用い、敵に攻めさせて勝つ戦略を説きましたが、イランが何もしていないのにアメリカは自分からイラクにはまり込み、イランは機会を利用するだけで、アメリカを窮地に追い込めたわけです。本当に攻めるべき時かどうかを見極めるのはむずかしく、だからこそ、戦争はやむを得ない場合だけにしておけというのが、兵法の慣らいというものです。逆に言うと、戦う時は徹底的にやれということでもあります。古典落語に登場するドケチの感覚で軍を使うのが理想で、ブッシュ政権みたいに敵に気前よく兵士の命をくれてやるのは最悪です。
状況を改善するには、イランに見返りを与えてイラクから手をひいてもらうしかありません。余計なことをして、さらに悪い結果を生むのを避けるのも兵法の一つですが、アメリカは完全に無視しています。イランと取引をするにも、アメリカは最良の条件が整うまで待ち、世界から敗北とみなされることを避けようとします。そのために、現場では米兵が倒れ続けるのです。