military.comが、9月の議会への報告に先立って、武装勢力がベトナム戦争のテト攻勢のような攻撃を行うかも知れないというデビッド・ペトラエス大将の意見を伝えました。
1968年のテト攻勢は軍事的には失敗であったものの宣伝効果は高く、このためにアメリカの世論はベトナム戦争支持から反対に転じたというのが定着した評価です。それと同様のミニ・テト攻勢が考えられるというわけです。
過去の事例を学ぶのは大事ですが、それをやりすぎると失敗するということもあります。現在の状態はベトナム戦争と比べられません。武装勢力側はもっと長期的な視点で戦略を考えていると思います。テト攻勢は武力の直接的な行使でしたが、それを米軍相手にやると勝てないことは武装勢力も分かっています。米軍の方が歩兵を支援する火力が圧倒的に強く、米軍部隊に対して銃撃戦をやれば、武装ヘリコプターや戦闘車両を集めるだけです。だから、現在は銃撃戦も輸送隊を襲って逃げる方法がほとんどになっています。IEDや自動車爆弾による攻撃は、警備状況や準備の都合で機会があれば実行するという具合ですから、増えたり減ったりを繰り返しています。すでに、先日の150人を越える被害者を出した事件などでアピールは十分できています。これが西欧の軍隊ならば考えるかも知れませんが、イスラム人の発想はそれとは合致しません。また、武装勢力は欠くグループがバラバラに動いていますから、活動は終始一貫しないのが特徴です。だから、9月15日の議会報告を目指してテロ攻撃が増えるかどうかは分かりません。
欧米の軍事論は理論的に過ぎて、逆に現実的な柔軟性を欠く傾向があると、私は感じています。第2次大戦後、リデル・ハートの戦略論が流行るとそればかりになり、クラゼヴィッツが否定されたことは有名です。間接的手法が大流行になり、それが冷戦下で様々な危機を生む原因になったと見ることもできます。完璧とか最強とか言える戦略書はなく、戦略は過去の事例を参考にしながら柔軟に考えるしか手がないのだと思います。ここでベトナム戦争の教訓を持ち出しても、余り意味はありません。
ペトラエス大将は「国家レベルにおいて、真の和解を促進する進展はまだ作業段階にあります」と述べています。少し前には大半の部族は和解できるという見解を米軍が出したはずですが、未だ前進が見られないようです。和解案はやはり成功しそうにありません。