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米本土へのテロの脅威に関する報告書

2007.7.19



 米政府が機密報告書の一部「Fact Sheet: The Terrorist Threat to the U.S. Homeland」を公開しました。リンクをクリックすれば、PDFファイルで手に入ります。7ページある書類ですが、本文は5ページ以降です。その内、5ページの「見積もりに関する用語の解説」は、米政府の文書に登場する用語の読み方の注意で、報告書の本文ではありません。ただし、これらの用語はこの種の文書によく出てきますから憶えておくのが得です。肝心なのは6ページ以降です。それを日本語に直したので、参考までに読んでください。



見積もりに関する用語の解説


 当報告書が「判定します(we judge)」や「評価します(we assess)」といった言葉を使う時は、「見積もります(we estimate)」、「の可能性があります(likely)」あるいは「の徴候です(indicate)」と同義語的に用い、分析的な評価や見解を伝えようとしています。こうした不完全であるとか、時には断片的な情報に基づく評価は、事実、証拠、認識ではありません。一部の分析的な見解は確定された情報に直接に基づいており、それ以外は建築用ブロックの役目を果たす過去の見解に依拠します。どの判定の種類においても、我々はなにかが事実であるとか、ふたつの事柄や問題をつなぐ決定的な「証拠」を持っていません。

 可能性に関する情報の判定は、事態の発展や成り行きの可能性についての情報機関の意見を反映することを目的としています。こうした判定に正確な数的なレートを割り当てるのは、我々の意図を越えて困難となるでしょう。下図はそれぞれの用語の関係についての大まかな概念を規定しています。


 「とは思われません(unlikely)」という言葉は、起こっていない出来事を示唆しません。「おそらく(probably)」と「の可能性があります(likely)」は五分五分の見込みよりも大きいことを示します。「we cannot dismiss(を却下できません)」「we cannot rule out(を除外できません)」と「we cannot discount(を無視できません)」は、それが言及することを必要とする出来事で、ありそうにないか、さらになさそうな出来事を表します。「かも知れません(may be)」と「を示唆します(suggest)」のような言葉は普通、関連性のある情報が存在せず、不完全で、断片的なため、可能性を評価できない状況を示すために用います。

 さらに、判定する中で可能性の度合いを表現するために、我々の判定を助ける情報が及ぶ範囲と質に基づいた確実性のレベルを、「高度の(high)」「中程度の(moderate)」あるいは「低度の(low)」に属するものとします。

 ●「高い確実性」は一般的に我々の判定が高品質の情報であるとか、問題の性質が堅実な判定を可能にするか、その両方を示します。

 ●「中程度の確実性」は一般的に、情報が様々に解釈されていて我々が別の意見を持っているか、情報が確実でもっともらしいが、確実性が高いレベルだと断言するよう十分に確証されないことを意味します。

 ●「低度の確実性」は一般的に、情報が乏しく、疑わしく、あるいは非常に断片的で堅実な分析的推論をすることが難しいか、情報源に重大な懸念や問題があることを意味します。



 ここから先が本題です。



主な判定事項


 我々はアメリカ本土がこれからの3年間以上にわたり、執拗かつ進化したテロリストの脅威に直面するだろうと判定します。イスラム主義者のテロリストグループと下部組織、とりわけアルカイダによる主な脅威は、彼らの衰えを知らぬ米本土を攻撃せんとする意図と、能力を改造・改善するテログループによる継続的な努力によって促進されています。

 我々は過去5年間にわたる世界規模の対テロリズムへの努力の大幅な拡大は、米本土を再び攻撃するアルカイダの能力を制限し、テロリストグループに米本土が9/11よりもさらに攻撃するのが難しい標的として認知させたと評価します。これらの処置は9/11以降の合衆国に対する知られている策略を壊すのを助けました。

●しかしながら、我々はこれほどの国際協調も9/11がさらに古い記憶になり脅威の認識が逸れはじめると徐々に衰えるかも知れないことを懸念します。

 アルカイダは、現在も未来も米本土への最も深刻なテロリストの脅威であり、その中心的な指導力は影響の大きい策略を企て続け、同時にスンニ派社会の人々に自身の努力を模倣させたり、能力を補わせたりします。我々はこのグループがパキスタンの連邦管轄トライバル・エリア(FATA)の隠れ家、活動を実行する中堅幹部、トップの指導力を含む、米本土を攻撃する能力の主軸を守るか、甦らせたと評価します。我々は9/11以降アルカイダの上級指導者と結びついている合衆国内の一握りの個人を見つけただけですが、アルカイダは米本土に作戦要員を配置する努力を強めるだろうと判定します。

●結論として、我々は現在の合衆国が高度の脅威下にあると判断します。

 我々はアルカイダが米本土を攻撃する能力を、地域のテロリストグループとのさらなる協力を通じて強め続けようとすると評価します。我々はアルカイダはおそらく最も目に見える有能な協力相手であり、唯一米本土への攻撃の願望を表明していることで知られるイラク国内のアルカイダ(AQI)との接触と能力をてこ入れしようと模索するだろうと評価します。加えて、我々はAQIとの協力は、アルカイダがより広範なスンニ派の過激派社会に力を与え、資産を増やし、米本土の攻撃を含んだ作戦要員の徴用と洗脳を助けると評価します。

 我々はアルカイダの米本土の策略は、大量の犠牲者、視覚的に劇的な破壊、重大な経済への影響、及び(あるいは又は)米国民への恐怖を生むという目標のために、とりわけ政治、経済、インフラの標的に焦点を当て続けている可能性があるると評価します。このグループは通常の小火器、自家製爆弾に精通し、新しい能力を作り出し、警戒の障害を乗り越えることにおいて革新的です。

●我々はアルカイダが攻撃において化学物質、生物、放射性物質あるいは核物質を入手して使おうとし、それらが十分な能力を持っているとみなせば使うのを躊躇わないだろうと評価します。

 我々は過去において合衆国外で反米攻撃を行ってきたレバノンのヒズボラが、我が国がこのグループやイランに対して直接的な脅威を示したとみなすなら、次なる3年間に米本土を攻撃しようと考える、より強い可能性があると評価します。我々は過激派の拡大、とりわけサラフィー主義のインターネットサイト、ますます攻撃的になる反米レトリックと行動、そして西欧諸国内の過激派、自然発生の下部組織の増加は、アメリカを含む西欧のイスラム系の人々の急進派と暴力的なセグメントが拡大していることを示していると評価します。

 よりイデオロギー的に、仮想的に、さらに(あるいは又は)世界的な過激派の活動への身体的な感覚で結びつくようになっている米国内にいる少数の暴力的なイスラム過激派の米国法の執行による逮捕と起訴は、誰かが米本土での暴力の行使は正当だとみなすまでに十分に過激化するかも知れない可能性を暗示すると評価します。しかしながら、我々はこの国際的なイスラム主義者のテロリストの脅威は、ヨーロッパにおけるそれほど深刻である可能性はないと評価します。

 我々は、しばしばFBIが「シングルイシュー」グループと称する、その他の非イスラム教徒のテロリストグループはおそらく次なる3年間に、彼らの暴力的な経歴の条件の下で攻撃を行うだろうと評価します。しかし、我々はこの暴力は小規模である可能性が高いと評価します。

 我々はグローバル化の傾向と最近の技術的な進歩は、中央集権的なテロリスト組織、訓練キャンプ、指導者をまったく必要とせずに、さらに少数の阻害された人たちがお互いを見つけたり連絡したり、彼らの怒りを正当化して強め、攻撃のための資源を集結しすることを可能にし続けるだろうと評価します。

●この環境において、より広範で多様なテロリストの策略を見つける能力は、最近の合衆国の防衛努力と我々が策略を察知して破壊するために使うツールに挑戦するでしょう。地域レベルの疑わしい活動がどのように戦略的な脅威の情報に関連していて、合法的な協力の中においてテロリスト活動の指標を特定するにはどうするのが最善かについて、もっと多くの理解を必要とします。(以上)



 最後に私の感想を書いておきます。機密文書の要旨なので、具体的な事実は伏せて結論だけを書いてあります。機密文書は数百〜数千ページのはずです。まともに読む人は本当に一部の人たちでしょう。

 それにしても、テロが世界中に拡大していることに対する懸念はなく、自国の安全だけを解説してある点が気になります。アメリカの安全保障論は自国をいかに安全にするかだけを論じるところが欠点です。現在の世界を一度に平和にするのは不可能です。善か悪かではなく、現状をどうやってよい方向に持っていくかを考えるべきなのに、自国のことばかり考えるのは新しい問題を生むだけです。

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