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ブッシュとオバマのイラク撤退論

2007.9.13



 安倍総理が昨日突然辞任しました。テロ特措法の問題があったので、誰もが11月を過ぎてから退陣すると考えていた時の急な辞任です。これで国会のスケジュールは組み直しとなり、テロ特措法については時間的にもう余裕がなくなったことになります。驚いたことに、安倍総理が最後にメールマガジンに載せた退任挨拶のタイトルは「改革、テロとの闘いを前に進めるために」で、文末は「私は官邸を去りますが、改革、そしてテロとの闘いは続きます。これからも、みなさんのご支援をお願いします。」でした。安倍総理にとって、改革の次に大事な事はテロとの闘いだったというのは驚きです。アメリカとの関係が国内政治の改革と同列だというのでは、とても支持できません。安倍総理がテロとの闘いをどのように理解していたのか、よく聞いてみたいという気がします。

 アメリカではブッシュ大統領が任期を満了するつもりでいます。military.comによれば、ブッシュ大統領は、勧告に従い来年夏までに30,000人を撤退させると、ホワイトハウスでの15分間演説ではじめて公式に述べるようです。ペトラエス大将の勧告について、さらに詳しい情報がこの記事に載っています。今月中に2,000人の海兵隊員を撤退させます。これは新情報です。この撤退に交替で派遣される部隊はありません。さらに、12月中旬に陸軍の戦闘旅団3,500〜4,000人を撤退させます。すでに知られていた来年1月に1個旅団の撤退はこのことでしょう。さらに、来年8月までに4個戦闘旅団を撤退させます。いかにも繕った形の、政治的な意味合いしかない撤退策です。2,000人の海兵隊員は、とにかくもアメリカ国民をなだめるための象徴的な撤退に過ぎません。交替部隊はないと言っても、必要になれば戻せるように計らわれるはずです。だから陸軍ではなく海兵隊なのです。陸軍の戦闘旅団3,500〜4,000人の撤退は、正確に言えば1個旅団弱程度の撤退です。これも無理矢理との印象を禁じ得ません。4個戦闘旅団の撤退は最初から予定通りのことなので、全面的な撤退とは関係がありません。

 民主党の有力な大統領候補バラック・オバマ氏は、今年1月、撤退を5月1日に開始し、2008年3月31日に完了させる法案を提出していました。military.comによれば、12日、オバマ氏は新しい撤退案を発表しました。アッシュフォード大学での演説で、オバマ氏はこう言いました。「はっきり言って、イラクで武力による解決はなく、まったく成されていません。我々の安全を守り、イラクの指導者に内戦を終わらせるために圧力をかける最善の方法は、即座に我々の兵士たちを撤退させ始めることです。それは、半年や1年以内ではなく、今です。大統領は、米軍をすべてイラクに駐留させたままにするか、イラク人をすべて見捨てるか、2つの選択肢しかないと我々に信じさせようとしています。私はこの選択肢を拒絶します」。撤退は月に1〜2個旅団のペースで行い、いま始めれば来年の終わりまでには完全撤退ができると主張しています。

 オバマ氏は選挙用の根拠のない主張をしているのではありません。イラクに地上軍が踏みとどまり続けても事態が好転する兆しはありません。戦争の目的はイラクで勝つことではなく、アルカイダに勝つことです。よけいな損失を防ぎ、組織としてのアルカイダを壊滅するには、方針をすぐにでも転換することが必要です。ごく一部の地上軍と空軍をイラク向けとしてクウェートやサウジアラビアに残し、あとは撤退しても、テロとの戦争には何の支障もありませんし、むしろ好転が期待できます。このように作戦の柔軟性を維持するのは、昔から兵法で言われてきたことです。しかし、軍事独裁国家と違い、民主主義国では逆にこういう方向転換が難しいのです。議会や行政府は動きが鈍い巨人のようなもので、様々な意見に曝されるために結論が出るのは常に遅れます。日頃、そこまで考えて政治を論じる必要があるわけです。

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