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戦争キャンペーンと大統領のイラク電撃訪問

2007.9.4



 military.comが、5週間にわたる、退役軍人を起用した、1千5百万ドルを費やした戦争キャンペーンについて報じました。このキャンペーンは新保守主義団体「Freedom's Watch」が前大統領報道官アリ・フライシャーと組んで制作したもので、ジョージア州、フロリダ州、他南部5州で、ラジオ、テレビ、ウェブサイトを通じて流されました。問題のTVコマーシャルは同団体のウェブサイトでも見ることができます。トップページ右下の「Watch Now」をクリックして下さい。

 ある広告では、昨年12月に両足を失った兵士が、アメリカがイラクから撤退すれば「私が成し遂げ、犠牲を払ったすべてが無に帰す」と述べます。別の広告では、女性が9.11テロで亡くなった叔父とイラクにいる夫を思い出し、アメリカがイラクから撤退すれば「アメリカに対するさらなる攻撃を意味することになる」と警告します。

 イラクからの撤退を主張しているリベラル派グループ「MoveOn.org」は、このキャンペーンを「アルカイダとイラクの間の境界線をぼやけさせる」と批判しています。確かに、この広告に見られる主張は、兵士の犠牲を利用して戦争の継続を押しつけようとするものです。かつて日本政府が「今、降伏しては、戦死した英霊たちに申し訳が立たない」と言って、戦争を止めようとしなかったのと同じ理屈です。すでに9.11テロとイラクは何の関係もなかったということが明らかになっているにも関わらず、両者を結びつけて戦争を支持させようとする手法も批判されなければなりません。それにしても、こうした宣伝合戦に関する記事を軍人向けメディアが報じるのはアメリカらしいと感じますね。「朝雲新聞」にはまず載らない話です。

 このキャンペーンの原因を作ったブッシュ大統領ですが、ライス国務長官、ゲーツ国防長官と共にイラクを訪問しました。正直、これには驚きました。電撃的に訪問したことではなく、まだこんな陳腐なサプライズが通用すると思っているところに驚いたのです。9月15日にクロッカー大使とペトラエス大将が米議会でイラク増派に関する報告を行います。ブッシュ大統領はその報告を見てから増派の成果に関して結論をくだすべきだと主張していました。

 で、ブッシュ大統領が何を言ったのかを、military.comの記事で見てみました。海兵隊のコブラ・ヘリコプターのパイロットは、最近の部隊のローテーションについて「帰国と訓練の期間が十分ではありません」と報告しました。すると、ブッシュ大統領は「士気は。士気はどうなんだ?」と尋ね、リー・ヘミング大尉は「極めて高くあります」と答えました。さすがはブッシュです。部下が重要な報告をしても、聞きたくないことには耳を貸そうとしていません。ヘミング大尉はさぞ苦り切ったことでしょう。派遣期間が増えたために、人員と装備が従来の戦力に達していないことは繰り返し報じられています。それを「精神で補え」と暗に言っているわけです。6時間の滞在なので、他は米軍とイラク政府の高官たちとの会議に費やされたのでしょうが、兵士との対話については、記事にはこれしか書かれていません。国防総省のウェブサイトにはもっと記事があると思ったのですが、

 国防総省のウェブサイトには、ブッシュ大統領が基地にいる海兵隊、海軍、陸軍の兵士を前にして、増派の成果を強調したと書かれています。それを「アンバル州の目覚め」と呼んだブッシュ大統領は、かつてアルカイダの側に立っていたスンニ派部族が、いまや連合軍の側について戦っていることを指摘しました。確かに、今年の春頃からアンバル州の部族が米軍を支持するようになったという報道が続いています。しかし、今年の1〜2月はアンバル州は暴力の巣窟でした。急にスンニ派部族が味方についたのは変ですし、同時に他の州でのテロ事件が増え、イラク全体でのテロ事件の数がほぼ横ばいであることを考えれば、アンバル州で減った分が他の州で増えていることになり、アルカイダ系武装勢力がアンバル州から移動して、他の州で活動するようになっただけの可能性が非常に高いことになります。今回、ブッシュ大統領がバグダッド州ではなくアンバル州を選んだのは、バグダッド州やその他の州でテロ事件が増えているからです。そこに気がつけば、今回のイラク訪問と、そこでブッシュ大統領が述べたことは“作りごと”である可能性が高いことになります。

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