今年もよろしくお願いします。
昨年の正月は、サダム・フセインの死刑の話を書きました。すでにこの出来事は過去となり、いまはベナジル・ブット元首相の暗殺という新しい局面を迎えています。
イギリスのチャンネル4が、ブット元首相が暗殺される直前直後の新しい映像を公開しました。それには、銃声、後ろにのけぞってから車の中に倒れ込む元首相、爆発、が写っていました。
具体的な怪我の状況は、国内ではあまり報じられていないようです。ブット氏を診た医師団はまだ死因を特定していません。驚いたことに、ラワルピンディ病院の監督委員の一人によれば、医師が検死を要求したのに、地元の警察本部長が拒否しました。これでは死因は明らかになりそうにありません。遺族が遺体を調べるつもりがあるのかは不明です。
ワシントン・ポストに書かれたブット氏の怪我の状態は次のとおりです。
- 病院に運ばれた時点で心肺停止状態で、脳の右側から出血し、脳の一部が見えていた。
- 頭骨の陥没骨折を伴う開放性の負傷が心肺停止を導いた。
- 傷の形は、1.2インチ(約3センチ)×2インチ(約5センチ)の不規則なだ円形だった。
- 傷の中に異物はなかった。
この報告からすると、銃弾の可能性は低そうです。傷がひとつなら弾が頭部に残っているはずですし、銃弾による傷だとすれば大きすぎます。ブット氏がのけぞったのは、銃声に対する生理的な反応であった可能性もあります。私も近くで猟銃が撃たれた時、体が反射的に動いたものです。しかし、地元警察が首(あるいは首と胸)を2発撃たれたと発表したとする報道もあります。しかも、武器は自動小銃だとも書いてあります。自動小銃は大きすぎて服の下に隠せませんし、どうせなら連射しようとしたでしょう。しかし、サンルーフのレバーに頭をぶつけたという説明は理解できません。サンルーフという言葉をどういう意味で用いているのかは分かりませんが、一般的には自動車の屋根に付けられた開口部のことです。そのレバーなら、スイッチのような形のはずです。そこに頭をぶつけて死亡するとは思えません。爆弾の破片なら、頭部内に破片が留まる可能性が高いのですが、破片が浅い角度で頭部へ衝突した後、どこかへ飛び去った可能性も考えられます。傷が楕円だったことが、それを連想させます。
ちなみに、皮肉ですが、記事中の「shrapnel」は、英語では爆弾の金属片、銃弾の破片の両方を意味します。
容疑者も一人から二人へと変更されました。一人が銃撃役、一人が自爆役だというのです。容疑者のひとりが髭を生やしておらず、サングラス姿というのが気になります。イスラム系男性の姿とはかけ離れているからです。イスラム国以外で生まれ育ったイスラム信者の可能性も考える必要がありそうです。その方が合法的にパキスタンに入国するためには好都合です。パキスタン政府が知らない訓練を受けた外国人を入国させ、自爆ベストと拳銃を渡して暗殺を実行するのは、マスード将軍の暗殺で使われた手法に似ています。そうなると、パキスタン政府の犯行説は怪しくなります。もっとも、パキスタン政府の発表はまだ確定的な段階に来ていないように思えます。本当に犯人が二人だったのかも、私には確信が持てません。
ブット一族への攻撃は今後も続くでしょう。今回の事件で、それがパキスタンを不安定にすることが世界に示されました。今年、パキスタンはもっと不安定になるでしょう。日本が洋上給油をして、それが防げるとは考えられません。
先月出した戦術クイズの解答編を掲載しました。ぜひ、答え合わせをしてみてください。(記事はこちら)