ダーティボム容疑者の起訴が取り下げに

2008.10.17



 military.comによれば、キューバのグアンタナモ基地に拘留されているイギリス人ビニャム・モハメッド(Binyam Mohammed)が、ダーティボムを爆発させる事件を企てたという主張を取り下げました。

 モハメッドの弁護士によると、この起訴は拷問を受けたための虚偽の自白に基づいています。米政府はモハメッドが、アメリカでダーティボムを起爆し、マンションを爆破し、ナイトクラブに青酸ガスを放出する計画を立てたと主張していました。

 ウィキペデイアによると、モハメッドはエチオピア出身で、イギリスに亡命して、イギリス国籍を取得しました。2001年6月にパキスタンへ行き、アフガニスタンに移動して、アル・ファルク訓練キャンプ(al Faruq training camp)で、テロリストになる訓練を受けたとされています。2002年4月10日、モハメッドは偽造パスポートでパキスタンのカラチ空港からイギリスに行こうとしたところを逮捕されました。2005年11月7日に共謀罪で起訴されていました。2002年以降、ずっと拘留され続けているのです。

 彼もまた長期間アメリカの収容所に収監されているテロ容疑者の一人です。彼は、モロッコに収監されていた時に、拷問で自分のペニスを切られたと主張しています。問題は彼が本当にテロリストがどうかです。それを判断するには、すべての証拠を検討する必要がありますが、そうした情報が公開されることは期待できないので、一般論で述べます。

 起訴する側は何か証拠があれば、それを言いたがるものです。モハメッドについて物的な証拠は偽造パスポート以外にないようです。もし、そうしたものがあれば、当局は発表したがるものです。裁判のために公表を控えているという想像は、大抵の場合で誤っています。アムネスティ・インターナショナルの記録を読むと、彼はほぼ全種類の拷問を受けています。こうした環境で虚偽の自白が引き出されるのは珍しいことではありません。尋問官は、自分が聞きたいことを容疑者に喋らせ、それ以外のことを喋らせないようにするものだからです。彼の供述長所が何百ページあっても、信用することはできません。

 アメリカが対テロ戦でやったことは、第2時世界大戦でドイツがやった残虐な行為が、アメリカの常識と大して違わなかったということの証明でもあります。アメリカ映画では、ドイツ軍は常に悪者で、狡猾な手を使います。一方、フランスのレジスタンスは自由の戦士として描かれています。しかし、米兵たちは、規律正しいドイツ人に感銘を受け、フランス人はだらしない人たちと感じていたのが本当といいます。そういう映画にしないと、米軍を侮辱することになるためです。脅威を受けると、どの国も理性が短絡し、残虐な行為を正当化します。人は簡単に獣に落ちるということを、我々は自戒として受け止めるべきです。

 ダーティボムは、すでに使われていてもおかしくない兵器ですが、今のところ、2件の企てが確認されているだけで、使われたことはありません。放射線を通さない容器に放射性物質を入れ、爆薬で容器を破壊することで、放射性物質を周囲にばらまくのがダーティボムです。イギリスで起きたリトビネンコ事件と同じ手法ですが、ダーティボムは放射性物質の量が多いので、大がかりな容器に放射性物質を閉じこめる必要があります。それが面倒なのか、これまで実際に使われてきませんでした。このダーティボム事件が存在しなかったとしても、特に不思議ではありません。


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