コリン・パウエルがオバマ支持を表明

2008.10.21



 御存知の通り、ブッシュ政権で国務長官を務めたコリン・パウエルが、バラック・オバマ候補を支持すると表明しました。military.comにも、その記事が載っています。

 その記事で興味深いのは、副大統領候補サラ・ペイリンについて、彼が触れた部分です。このことは国内報道では、ほとんど触れられていません。パウエルはペイリンについて、次のように述べました。

私は、彼女がアメリカの大統領になる準備ができているとは信じません。

 ペイリンは副大統領候補であって、大統領候補ではありません。しかし、マケインが死亡したり、職務を続けられない状態になった場合、副大統領が職務を引き継ぎます。当然ながら、ペイリンは大統領になる可能性が最も高いアメリカ人なのです。そういう人物になる資質がペイリンにはないと、パウエルは指摘しているのです。その理由は記事に書かれていません。経験と知識の点で、ペイリンが合格点だと考える人はいないでしょうし、最近、アラスカ州知事時代の職権濫用が認定された点は、公正さの点で問題となります。おそらく、この辺がパウエルには気になるのでしょう。

 やはり、ペイリンを選択したのは重大な誤りでした。彼女が大統領になって国政の第一線に立つ姿を想像すれば、オバマの副大統領候補ジョセフ・バイデンの方が相応しいと、誰もが気がつくはずです。ペイリンがビンラディンと戦う姿を想像すると、自然と首が傾いてしまうからです。私は3月から、今回は民主党候補が有利と言ってきましたが、その見解は次第に確固としたものになってきました。よほどのことがない限り、この優位は選挙まで揺らがないでしょう。

 別の記事によれば、オバマは「彼(パウエル)は私のアドバイザーの一人として役割を担うことになるだろう。彼が正式な役割を望むかどうか、それが彼にとってよいことかどうかは、我々がよく議論しなければいけないことだ」と述べました。イラク戦に反対し続け、最終的には開戦に加担しなければいけなくなったパウエルは、アメリカの山本五十六だと言えます。民主党支持者にとって、これは歓迎すべき味方です。共和党支持者は当惑や怒りを表明しており、それは別の記事に書かれています。

 皮肉にも、パウエルの発言は、オリバー・ストーンが監督したブッシュ大統領の伝記映画「」の公開直後でした。この作品にはジェフリー・ライトが演じるパウエルが登場します。「華氏911」の場合でも、映画が大統領選挙に与える影響は限定的でした。それでも、大統領選挙に関心がある人には観たい作品でしょう。すでに、アメリカではこの作品に描かれた事実関係について批判が起きているようです。伝記映画は実録映画や再現ビデオではなく、制作者が該当人物をどう見ているかを表明する作品であることに気がつかなければなりません。

 ところで、当サイトにアップロードしているジェフリー・レコード教授が2003年12月に発表した「BOUNDING THE GLOBAL WAR ON TERRORISM」には、現在を見通したかのような解説があります。財政的な側面について、様々な予測を並べた後で、結論としてレコード教授は次のように書いています。

 実際のところ、これらの数字は見積もりであり、見積もりは仮定に依存している。しかし、これらは、2001年と2003年の減税が継続されることが目前で、最低課税法改正法案が議会を通過し、裁量支出がインフレ率を大きく上回る、連邦財政の危機の重大性を伝えている。これらの見積もりは、さらに、2004年度以降のイラクにおける合衆国軍の費用や、イラクが世界に対する責任に応える貢献力により決定される、より大規模な合衆国陸軍の予想される費用を含んでいない。財務的には、来年には何かを犠牲にしなければならず、合衆国のイラクにおける野心を何か削減しなければならないだろう。こうした削減は、特に、アメリカ人がイラクへの出費の因果関係を理解するようになること、連邦予算の赤字の急増、そして本国での経済的な悪い出来事(金利の急上昇など)により、一層増えるだろう。

 ぞっとするほど、現在の状況を言い当てているとは思いませんか。繰り返しますが、この予測は2003年に書かれたものです。ブッシュ政権はこうした専門家の意見を無視し続けてきました。実際、ブッシュ大統領は「専門家はよく間違えるのだ」といって、イラク戦に対する批判に答えたことがあります。

 軍事知識はこうした事態を呼び起こさないために活用しなければなりません。それは、イデオロギーや軍事マニアの関心事とは、まったく別の努力なのです。


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