military.comによれば、未来戦闘システム(Future Combat Systems)に関して、米陸軍の中で議論が二分しています。一つのグループは未来戦闘システムを受け入れるよう主張し、もう一つのイラクとアフガニスタンから帰還したグループは未来の戦争は現在のそれに近く、FCSを放棄すべきだと主張します。
H.R.マクマスター大佐(Col. H.R. McMaster)は後者の一員で、空軍のチャールズ・ダンロップ少将(Maj. Gen. Charles Dunlap)とデビッド・デピュラ中将(Lt. Gen. David Deptula)ら、支持派を批判します。記事はマクマスター大佐の意見を主に紹介しています。
大佐の意見を要約します。FCSは1990年代型思考への回帰です。それは、地上軍を配置することのコストと長期化を避けるために、ハイテク機材による監視、空軍と精密兵器による長射程からの攻撃を主眼としています。これらは未来の戦争ではあまり必要にはなりません。FCSはエイブラムス戦車やブラッドレー歩兵戦闘車を用いますが、これらを動かすためには莫大な燃料が必要ですが、その必要性は将来の戦争では低いと考えられます。支持派は未来の戦争の予測を誤っており、2000億ドルもの開発費をかけるのは疑問だというわけです。大佐は、軍需産業、国防総省、議会、しばしば欠陥があるコンセプトに正当性を与えるシンクタンクのもつれた関係によって、理論が実践に打ち勝ち続けると言います。
これまで、戦闘システムを統合するコンピュータプログラムの現実性と膨れあがった予算に関する批判はありましたが、戦争の型に関する意見が出たのは初めてです。FCSはハイテク偵察機材からの情報をコンピュータが整理し、指揮官が最も効率のよい作戦を指示できるようにすることを目標にしていますが、そのプログラムは複雑すぎて完成しないとの声も出ていました。今回の批判は、FCSが想定する戦争の型が実状と合致しないという意見です。FCSが大規模な軍隊との戦いを想定していることは明らかでしたから、このことは想像できないわけではありません。敵が装甲部隊を持つ正規軍ならFCSは最適のシステムですが、ゲリラ戦などの非正規戦ではあまり役に立ちそうにありません。さらに、軍事予算に群がる周囲の者たちが、現場の声を無視した兵器開発を続けていることへの批判は、珍しいものだと思います。
FCSは「先に敵を見つけ、命中弾を送り込む」という、戦闘に不可欠なルーチンをハイテク機材で実現しようというシステムです。しかし、非正規戦では敵を見つけがたく、見つけても少数の場合がほとんどです。敵が固まっているところを集中的に攻撃するのが戦闘の理想ですが、正規戦に比べると非正規戦は、そのチャンスが少ないのです。
こうした兵器に関する議論では、陸軍から反対意見が出て、空軍がそれに反対するのが、過去から繰り返され続けてきたルーチンでもあります。空軍にとって、ハイテク兵器を使った戦闘システムは、自分たちの力を誇示するために必要です。特に、米空軍は陸軍航空隊から発展した部隊であり、陸軍に従属したくないという意識があります。こうした内輪の勢力争いは、新兵器システムの開発にも及ぶのです。空軍は自分たちの勢力を裏づけるする兵器システムに固執し続けるものです。たとえば、核兵器を管理する空軍は、単なる陸軍を支援する戦術空軍ではなく、国家の安全保障を直接守る存在です。こうした場合、空軍は核兵器の廃絶に必死で抵抗します。大統領候補バラック・オバマは公約に核廃絶を掲げています。彼が大統領になれば、米空軍がそれを阻止しようとする動きを見せるはずです。
日本でもそうですが、新兵器の導入について出される様々な意見には、こうした背景があることを忘れるべきではありません。軍事雑誌に掲載される意見の大半は、いくら理論的に書かれているように見えても、こうした背景を認識しながら読まなければなりません。