田母神俊雄航空幕僚長が「我が国が侵略国家だったなどというのは濡れ衣だ」とする論文を書いたために更迭された事件を、military.comが報じています。
アパグループのホームページによると、田母神氏は同社が募集した、「真の近現代史観」をテーマとする懸賞論文で最優秀賞を受賞し、賞金300万円と全国アパホテル巡りご招待券を獲得していました。論文の内容は、いわゆる自由主義史観と内容はほとんど同じで、特にオリジナル性は感じられません(論文のpdfファイルはこちら)。日中戦争と太平洋戦争のすべてを、コミンテルン(共産主義インターナショナル)が陰から操っていたという点がちょっと新鮮な程度ですが、これも他者の意見の引用に留まります。むしろ、気になるのは、懸賞論文の表彰式および記者発表が真珠湾攻撃が行われた12月8日と同じだということです。テーマと日程に主催者の意図が露見しており、このコンテストに一般的な歴史研究論文を応募しても、落選するのは目に見えていたといえます。
military.comの記事はごく簡潔で、日本で報じられている記事の要約という感じです。しかし、国内報道では「論文」と表現されている文章を、「essay」と表現しました。これは「小論」という意味で、分のスタイルによっては「随筆」という意味にもなります。田母神氏の論文は約6,800文字です。この分量で、太平洋戦争を総括するのは、まったく無理であり、私なら頼まれても断ります。たとえば、劇映画の作品を批評するにも、この文字数では不十分なのです。まして、規模の大きな戦争を論じるには、ほとんど意味がないほど少ない数字です。
更迭は空幕長の座を失うだけで、自衛官としての地位を失うわけではありません。この処分は記録され、今後、統合幕僚議長になる道は閉ざされたも同然です。でも、現在、田母神氏は60歳で、定年を迎えていますから、早暁、退官することになっていました。だから、これはそれを見込んでの計画的、確信的な行動に違いありません。(訂正 空幕長の定年は例外的に62歳です。正確に言うと、在任中はあと2年在籍できましたが、更迭により定年を迎える形になったのです)
この種の議論は、際限がなく、疲労する割には益を生まないので、田母神氏の小論の内容について、ここではコメントしません。みなさんで読んで、考えてみてください。ちなみに、military.comの記事の掲示板には過激な反対意見がいくつか載っていたのですが、その後、システム管理者によって削除されました。
追記:
先ほど、military.comの掲示板に、小論の英語版のアドレスを紹介し、意見を募ってみました(掲示板はこちら)。反応があるかどうかは不明ですが、しばらく様子を見ようと思います。