原潜ネルパの事件はロシア政府の委員会が調査しており、公式発表までは何も情報が出そうにありません。しかし、space-war.comは問題の本質を論じることはできると書いています。この記事で、さらに認識を改めることができます。
ロシアの潜水艦には2種類の消火装置が設けられています。局所的な火災を消火する空気泡システムと、フロンやその派生物を放出して立体的な火災(火薬や弾薬の火災を除く)を消すシステムです。フロンは立体的な火災に有効ですが、有害であり、ガスに曝される人に危険を及ぼします。この危険は乗員にポータブル式の呼吸装置を与えることでいくぶん和らぎます。呼吸装置は呼吸の強弱によって10〜30分間動作します。
ネルパのようなアクラ2型の原潜でフロン式装置を作動させるには、操作は手動で行われます。不適切な区画に消火ガスを放出した事故は過去に事例があります。1976年、K-77が修理の間に起きた誤りによる事故を体験しました。造船所で、誤った機器に、誤った数字がペイントされたのです。発令所は火災警報機が鳴るか、音声システムで口頭により必要な警告を受け取った場合にかぎり、消火装置を作動させられます。火災警報は装置は時々誤作動します。火災警報機が鳴っても、フロンは自動的に放出されません。ロシア当局は負傷した21人は火傷を負っていないと主張しています。火災警報機を作動させるような、ごく小さな炎と煙があったのかも知れません。発令所の誰かが、1番目と2番目の区画にフロンを放出することを決めたかも知れません。これらの区画にフロンが放出され、呼吸が不可能になり、死者が出たのかも知れません。
この記事はノヴォースチ通信の軍事コメンテータのエリヤ・クラミニク(Ilya Kramnik)によるものです。ロシア海軍の潜水艦の消火システムに関する知識は正確なものと考えてよいでしょう。やっと消火設備に関する正確な情報が分かったので、推測だけの領域から脱出できます。潜水艦の仕様は全長や最大船速など、ごく基本的なことしか公開されず、消火設備の詳細まではほとんど情報がありません。
記事によれば、ロシアの潜水艦では、発令所からしかフロンを放出できません。水兵が消火装置を誤動作させる可能性はより小さいと考えることができます。警報が鳴る前にフロンが放出され、その後にもう一度噴射されていることから、誤動作が起こった可能性が高まります。また、生存者の話では液状の物(水?)が噴射されたともあり、理解に苦しむ動作が起きた可能性を残しています。また、文中に危険だと書かれていますから、ガスの種類はハロンではなくフロンだったと考えてよさそうです。時代遅れのフロンを最新の潜水艦に用いていたのは、建造が遅れ、設計の見直しもできなかったためなのでしょう。
まだ、謎は残りますね。K-77での事故は今のところ記録が見つけられません。これは重大事故ではなかったことを思わせます。この事故の内容が分かれば、今回の事故についても、さらに詳しい推測ができます。しかし、重大事故ではなかったのなら、今回の事故の異常性を証明する一助になるかも知れません。なお、余談ですが、事故例として引用されたK-77は、退役後に映画「K-19」で舞台となる潜水艦の役を務めました。