海賊と民間軍事会社のオーナーが交渉中

2008.11.27



 military.comによれば、ソマリアの海賊は乗っ取ったサウジアラビアのタンカー「シリウススター号」の船主との交渉を打ち切り、米軍や米情報組織に近いバージニア州の富豪との交渉を望んでいます。

 その富豪は女性で、防弾ベストの開発製造や富裕層向けの警護を提供するセレクト・アーマー社(SelectArmor Inc.)を持つ、ミシェル・リン・バラリン(Michele Lynn Ballarin)です。バラリンは長くソマリアに関わり合いを持ち、アフリカに関する情報サイト「アフリカ・コンフィデンシャル(Africa Confidential)」によれば、彼女は2006年の軍事作戦の立案を手助けしました。

 Military.comはバラリンにインタビューを行い、彼女が衛星電話を使い、海賊と連絡を取っていること、最後のコンタクトは月曜日午後5時(東部時間)だったこと、シリウススター号だけでなく、33両のT-72戦車を積んだファイナ号にも関与していたことを確認しました。バラリンは、17隻の船と450人の人質を解放させること、ソマリア沿岸での海賊行為を終わらせることを目標としています。また、バラリンによれば、ソマリアの有力なイスラム武装勢力アル・シャバブ(Al Shabab)が、海賊を斬首すると宣言した後で、海賊の一人である若い男性の親族1人を拷問にかけて殺害しました。アル・シャバブは海賊を殺して身代金を奪うと宣言しており、これが海賊たちの心を動かしたといいます。

 バラリンは、海賊たちは海賊行為を維持できないことを理解しており、海賊行為はソマリア人にとって伝統的な行動ではないと言います。海賊たちは海賊行為によって1億5000万ドルの収入を得ましたが、一定の収入を与えれば海賊行為を止める、とバラリンは信じます。そのために、バラリンは500人の男女がバルベラ(Berbera)の沖で活動をするソマリア沿岸警備隊に勤務させるようにする計画を持っています。

 いよいよ時代は複雑になってきました。これまで害が指摘されてきた民間軍事会社が、武力紛争の調停に乗り出したというわけです。バラリンが関与したという2006年の軍事作戦については、アフリカ・コンフィデンシャルに記事があります(記事の全文を読むには会員登録が必要です)。2006年の軍事作戦とは、当時のソマリアの主要な武装勢力「イスラム法廷」がソマリア暫定政権と戦った時の話です。暫定政権はエチオピアの支援を受けて、一時はイスラム法廷を追いつめましたが、彼らは復活し、現在に至っています。バラリンが軍事作戦を計画したのには、会社の利益を考えてのことでしょうが、そういう人物に海賊の側が接触することが興味深いと言えます。このように、民間軍事会社が武力紛争のコンサルタント役を務める時代が来たのです。それも、現在は非軍事的な手法を模索しているとは、本当に読みにくい世の中になったと感じます。もっとも、ソマリアで沿岸警備隊を整備する仕事で、セレクトアーマー社が関与することになるのかも知れませんから、単純な奉仕行為とは言えないかもしれません。バラリンに関する略歴は読めますが、人物像まではまだ分かりません。どのような考えで活動しているのかを知りたいところです。

 それから、海賊たちがいつまでも自分たちの仕事は続かないと考えている点で、案外、海賊問題は解決しやすいのかも知れないと考えさせられます。彼らの動機は経済的なもので、非常に分かりやすいわけですから、それを満足させれば、少なくとも船を襲うようなことはしなくなるかも知れません。それから、アル・シャバブのように、地元に根を張る組織が海賊討伐に乗り出したことも、事態に大きな影響を与えます。外国の軍隊が陸上で海賊を掃討するのと、地元の組織がやるのでは、効果がまったく異なります。海賊問題は今後、意外な展開を見せる可能性が出てきました。

 なお、気になるニュースが報じられているので紹介します。military.comによると、先週インド海軍が撃沈した海賊の母船は、実際には漁船で、数時間前に海賊によって乗っ取られていたことが分かりました。

 漁船はタイのトロール漁船「エクワット・ナバ5号(Ekawat Nava5)」でした。インド海軍は甲板上に海賊の姿を発見し、同船が海賊船だと判断して攻撃しました。攻撃したのは、全長122mのインド海軍のテーバー(INS Tabar)です。この艦は巡航ミサイルや対空ミサイル、30mm機関砲を持っています。インド海軍がタイの漁船が乗っ取られたことについて、他国の海軍と連絡を取っていたかは不明です。


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