military.comによれば、戦略予算評価センター(the Center for Strategic and Budgetary Assessments)がスティーブン・コジアック(Steven Kosiak)の新しい戦費の見積もりを発表しました(pdfファイルはこちら)。それによれば、イラクとアフガニスタンで、これまでに9,040億ドルの戦費が費やされました。
この見積もりによれば、イラクとアフガンの兵数が現在の200,000人から75,000人以下に削減されたとしても、戦費は2018年までに1.7兆ドルまでに上昇します。すでにアメリカはベトナム戦争の戦費よりも50%以上多くを使っています。これは現在の戦争が人件費(給与、恩給)、暗視装置や防弾ベストなどの高価な装備品を必要とするからです。コジアックは兵一人あたりの年間費用は750,000ドルだとする議会予算局の見積もりを引き合いに出しています。費用のほとんどである5,090億ドルは、作戦と整備用の勘定に使われました。約1,900億ドルは追加の弾薬、戦地の兵士のためによりよい装備品を購入するため、既存の装備の更新、次世代兵器の開発促進に使われました。これらの予算は戦時緊急の予備費から出されました。この予備費は開戦初年度の戦費をまかなうものですが、対テロ戦ではなぜか毎年予備費が使われていることに、かねてから批判が集まっていました。記事は、議会はこの予備費を削減する意向だと書いています。コジアックは、簡潔な答えとして、戦費はアメリカ経済に被害を与えていないと主張します。国債は10兆ドルであり、戦費がすべて国債でまかなわれたとしても10%以下だからです。金融システムに7,000億ドルの緊急援助が行われ、1兆ドルの経済刺激政策が議論される時代には、8年間の戦争に1兆ドルを使うことは不当ではないと結論しています。
この記事を読んで、戦費の影響は思ったよりも悪くないと思うべきではありません。ジョセフ・E・スティグリッツらが書いた「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」では、単純な政府の出費だけでなく、民間人が被った様々な経済的影響を含めると、3兆ドルがドブに捨てられたと結論しています。スティグリッツも、この3兆ドルをアメリカ経済が負担できるのは間違いないと述べています。
問題は、これらの金をもっと有意義なことに使っていたら、アメリカ経済はもっとよい状況になったろうということです。現在、日本で派遣労働者の解雇が続発しているのも、アメリカに端を発した経済不況が原因であることは間違いがなく、日本への影響も少なくありません。これは直接的には対テロ戦とは関係のないサブプライムローン問題から起こりました。しかし、原油の値上がりが戦争に無関係とは言えず、金融ショックを追い打ちしたのは間違いがありません。政府予算というものは民間企業なら粉飾決算並みの杜撰なのが普通だ、とスティグリッツは書いています。よって、CSBAの報告書だけを鵜呑みにすることはできません。この種の見積もりは、どこまでを戦費と認定するかによっても、数字が大きく変わるのです。実のところ、米国防総省のような巨大な組織では、何にいくら使ったかは明確に分からないことが多いのです。過去に、米国防総省を完全にコントロールできた国防長官はおらず、誰もが巨大な組織の波にのまれていきました。