田母神俊雄前航空幕僚長が21日に名古屋市内行われた講演で、「あの時に『オッパッピー』までやっておけばよかった」「侵略国家との誤った歴史観を改めなければならない」と発言したと北海道新聞が報じています。
田母神氏にはまったく反省の色が見えません。講演全体の内容は記事からは分かりませんが、あまりの低レベルな発言には恥ずかしい思いを禁じ得ません。元空幕長がお笑いタレントの発言を引用するなど、そもそも考えられない話だと、私は考えます。前にも書きましたが、日本が侵略国家ではなかったとする見解を、米軍人はまったく受け入れません。それでどうやって米軍と共同行動を取るのか、信頼関係を維持していくのか。こうした問題について田母神氏が何か意見を述べたという話は未だに聞きません。
また、田母神氏は自衛官(強いて言えば軍人)の立場について、根本的に誤解しているとしか思えません。通常、軍人は上官の命令で行動するわけですが、命令を実行して上手く行かない場合、意見具申を行います。上官は意見具申の内容を検討し、その意見の方がよいのならば承認するという手順を踏みます。それ以外の個人的な見解を任務の中で表現することは許されていません。田母神氏が、現在の政府見解では自衛隊の任務が正常に進まないと考えるのなら、意見具申という形で表現すべきでした。制服組が政府に直接意見具申できないのならば、田母神氏は後輩のために、その道筋をつけるために職務を賭けるべきだったと言えます。田母神氏は個人的に懸賞論文に応募して、政府見解と異なる発言をしたのですから、更迭されるのは当然です。しかし、退職金の自主返納は防衛大臣の言い過ぎと言えます。
このことは、田母神氏に限った話ではありません。田母神氏が現職中に、部下が「私は共産主義を信奉しており、唯物史観に基づいた防衛論を述べたいと思います」と言ってきた場合、それを承認することができるとは思えません。すると、部下が「言論の自由」を根拠に、再び意見の披露を求めてきたとします。当然、田母神氏は許可を出すことはできないでしょう。外薗健一朗空幕長は第6航空団で、「社会的影響力の強い要職にある者は、立場を踏まえ、節度ある行動を取ることが求められる」と述べたといいますが、問題は自衛官(軍人一般を含む)が守るべきモラルだと思います。自衛官だから意見を述べてはいけないとは誰も考えません。
田母神氏の発言を自衛官の悲痛な叫びと聞くのは誤りです。私は防衛大学出身の幹部の中には、とんでもなく頭の固い人がいることを知っています。田母神氏もそういう人の一人だと思っています。